嘘をつかず自分をまる出しに。「自分らしさ」を見つけるには/クリエイター・オブ・ザ・イヤー 栗田雅俊さんの〈クリ活〉

嘘をつかず自分をまる出しに。「自分らしさ」を見つけるには/クリエイター・オブ・ザ・イヤー 栗田雅俊さんの〈クリ活〉

サントリーホールディングス「人生には、飲食店がいる。」や日清食品「カップヌードルPRO」などを担当する電通の栗田雅俊さん。広告会社のクリエイティブの原点ともいえる人の気持ちに届くクオリティで、社会に希望をもたらしたことが評価され、2022年にはクリエイター・オブ・ザ・イヤー(日本広告業協会主催)の栄冠も手にしました。クリエイター・オブ・ザ・イヤーの受賞を記念して、2023年6月20日に公開インタビューが行われました。当日の様子をお届けします。最初は教員を目指していた栗田さん。ひょんなことから広告業界を志望することに。そして電通に入社後、どのようにクリエイターとして歩んでいったのか語っていただきました。(マスナビ編集部)

写真:栗田雅俊さん
栗田雅俊さん電通 コピーライター/CMプランナー
岐阜県生まれ。主な仕事に、サントリー「人生には、飲食店がいる。」「サントリー生ビール/生きれば生きるほど生ビールはうまい!」、日清食品「カップヌードルPRO」、宝くじ「ロト/彼と彼女と10億男」「クイックワン/秒でできる宝くじ」、ユニクロ「母の日・父の日(あたしンち・ちびまる子ちゃん)」、パートナーエージェント「ドロンショとブラックジャック」など。
【 目次 】
広告クリエイターは奇抜である必要はない
自分らしく嘘をつかない広告をつくりたい
広告にはポジティブな役割がある
クリエイターを目指す学生のための就活イベント「クリ活フェス」開催

広告クリエイターは奇抜である必要はない

──広告業界を目指したきっかけを教えてください。
大学が教育学部だったこともあり、当初は地元・岐阜で教師になろうと思っていました。派手な学生生活ではなく、怠惰に暮らしていたと言っても過言ではないです。

そんなある日、所属していたサークルの部室に、インターンシップの前身である「電通クリエーティブ塾」のチラシがありました。当時は広告業界をまったく知らなくて、クリエイティブは天才がやるもの、自分みたいな凡人にはできないと思っていました。ただ、先輩から「受けた方がいいよ」と言われて、そんなに言うなら...と課題を出したんです。そうしたら合格しちゃって講師の方の反応も意外とよくて。元々、趣味レベルで四コマ漫画を描いたりしていたので、自分が面白いと思ってやっていたことが、もしかしたらほかの人にとっても面白いのかもしれない…と思えるようになりました。

広告は奇抜な発想をすることがいいわけではありません。多くの人にわかるものをつくる必要があるからです。意外と「普通の感覚」が武器になる瞬間があります。いま活躍している広告クリエイターも「学生時代は普通でした」と言う人が多い気がします。

クリエーティブ塾に参加したきっかけで電通を受けてみようとなり、内定をもらい今に至ります。もし、チラシが入ってなければ、先輩の後押しがなければ、全然人生が違っていたと思います。

自分らしく嘘をつかない広告をつくりたい

──入社してからのキャリアについて伺いたいです。
当時は入社1年目はクリエーティブ局に配属されないシステムだったこともあり、マーケティング局にストラテジックプランナーとして配属されました。2年目の転局試験でクリエーティブ局へ。2年目からはコピーライターとして、5年くらいひたすらコピーを書いていました。その後、CMもつくるようになり、時代の変化に合わせデジタルも手がけるようになりました。

──ターニングポイントとなった仕事を教えてください。
面白い広告をつくりたくてクリエイティブ配属になったけれど、なかなかうまくいかない。つくったものは全然面白くない。そのような中でしばらくして、男性用のデオドラント商品のラジオCMを担当することがありました。その時ふと、工夫をやめてものすごくシンプルにしてみようと思ったんです。僕みたいな地味な男二人が、いつも通りに冗談を言い合うだけの会話をCMにした。それがウケました。

これがきっかけで、無理をしない方がいいと気付きました。面白い設定や構造をつくる必要は必ずしもなくて、実はそこでしゃべっているだけでもよかった。こう思えるのに5~6年かかりました。力を抜いた自然体のスイングが視聴者に一番届く。そうわかってからは楽になりました。

──印象的な仕事はありますか?
パートナーエージェント「ドロンジョとブラック・ジャック」です。アニメや漫画キャラクターで有名なドロンジョとブラック・ジャックの婚活を描いた、お互いを探り合っていくシリーズ広告です。僕みたいな地味な人間だからこそ生まれた企画だと思っています。

CMは背景がなくシンプル。キャラクターの絵もほぼ動かない。セリフもテンションが上がることなくぶつぶつとしゃべっている。地味すぎるかなと思いましたが、そこを面白さと考えてみた。キャラクターはインパクトをつくるためのフレームとして設定して、その中に自分らしさという液体を注いでいく感覚でした。こういうアイデアって通常はもうちょっとドタバタ劇になると思うんです。派手なアニメーションをつけるとかドロンボー一味が出てくるとか、ストーリーと演出で面白おかしくするのが定石。でもこの時は徹底して静かな引きの雰囲気にしました。

キャラクター広告は、往々にして本来のキャラに嘘をついて非人間的に明るくなりがち。「このキャラクター、こんな発言しないのに…」といったCMを読者のみなさんも見かけたことがあるのではないでしょうか? でも僕は、自分にもキャラにも嘘をつきたくないなぁ…と思って、そのキャラクターらしい人間として扱いたかった。だからこそ、この企画ではドロンジョを一人の悩める女性として描きました。

広告にはポジティブな役割がある

──広告の魅力は何でしょうか?
広告って世の中のポジティブな面を示してくれると思うんです。東日本大震災のときにテレビCMが全部ACジャパンになって、世界が止まっているような気持ちになったのを覚えています。そのときに、「おいしくなった!」「新発売だよ!」などといつも紹介してくるCMは、“この世界は確実に前進しています”と伝える役割も担っていたのだなと思いました。広告には世の中を明るくする効果があることを、広告がなくなって初めて気づいたんです。

広告は最も多くの人に届く表現物です。届いた人をちょっと幸せにしたり、ふっと笑顔にしたりと、たくさんの人の幸福度を底上げできる可能性を秘めている。そこに自分はやりがいを感じています。そして、たくさんの人に届いてしまうからこそ、チャーミングでユーモラスなものでなくてはいけません。そのために頑張りたいです。

──最後に、どんな学生が広告業界に向いているかを教えてください。
広告が好きだったり、学生時代の派手な活動などがなくても構わないと思います。それよりも、人と違うことをやりたい、自分の世界観で戦いたい、世の中を良くしたいなど、内に秘めた動機がある人が向いているかもしれないです。その人らしい野心や個性が大事です。ただ自分らしさはもしかしたら見つけるのに苦労している人もいるかもしれません。それならば、インターンなどいろんなことをできるだけ試して、自分のやりたいこと得意なこと苦手なことを浮き彫りにしていくのがいいと思います。

自分を自己採点しないほうがいいです。「向いていないかも」「自分には難しい」と自らの可能性を消してしまわないように。自分もそうでした。けれど、その自己採点が間違っていることもあります。先述のようにまずはいろいろと試してみることをおすすめします。

クリエイターを目指す学生のための就活イベント「クリ活フェス」開催

好評発売中のクリエイターを目指す学生のための就活本『クリ活』に連動した、クリエイターを目指す学生のための就活イベント「クリ活フェス」を開催します!

イベントには
dentsu zeroの鈴木健太さんが登壇! ラフォーレ原宿や大塚製薬ポカリスエットの広告キャンペーン、羊文学やimaseなどのMV監督、映画レーベル「NOTHING NEW」やVHS喫茶「TAN PEN TON」の企画など多彩な領域で活躍しています。そのほかにも、元任天堂のデザイナー前田高志さんも登壇! 著書の『勝てるデザイン』『鬼フィードバック』に基づき、あなたのポートフォリオをブラッシュアップします。

イベントの詳細は下記バナーをタップ/クリック!


一覧に戻る