出版社の「複合力」で、クリエイターの価値を最大化する/集英社 新規事業開発部 森通治さん

出版社の「複合力」で、クリエイターの価値を最大化する/集英社 新規事業開発部 森通治さん

『週刊少年ジャンプ』や『週刊プレイボーイ』、『non-no』など、数多くの雑誌・書籍を出版している集英社。同社には新規事業開発部が存在し、業界の枠を超えた取り組みを通じて、出版社の新しい価値を探求しています。今回は新規事業開発部にてプロデューサーとして活動している森通治さんにインタビュー。新規事業開発部で取り組む「ゲーム開発事業」や「スタートアップアクセラレータープログラム」など、これからの出版社の可能性についてお話いただきました。(マスナビ編集部)

写真:森通治さん
森通治さん株式会社集英社 新規事業開発部
【 目次 】
集英社の新規事業開発部の仕事とは?
プロデューサーに求められるものは?
インターネット時代の出版社の真価とは?
出版社のデジタル化など、変化の激しい時代にどう生きればよいか?

集英社の新規事業開発部の仕事とは?

活動の目的としては、シンプルに「新しい事業をつくること」です。少し前までは、本をつくって売る出版を中心としたビジネスが、集英社の仕事の大多数を占めていました。そのなかで、新規事業開発部では出版に隣接する業界への新たなアプローチに取り組んでいます。具体的にはアニメやゲーム、グッズ、映像など領域はさまざまですが、私はゲーム事業を担当し、プロデューサーとして活動しています。

これまでにも、当社の作品に関するゲームは数多く発売されています。しかし、私たちは作家と企業との間に入り、作品のライセンスを管理することが主な役割でした。集英社として直接ゲームの制作・販売に関わっていたわけではなかったのです。そこで現在、当社では完全新規IP(知的財産)でのゲーム制作にもチャレンジしています。とはいえ、集英社にゲーム開発の体制があるわけではないので、ゲーム会社と協業の上で進めています。ゲーム会社が持つ開発の技術に、集英社の編集者や作家が培ってきた「キャラクターや物語をブラッシュアップする能力」を注ぎ込むことで、新たなゲームづくりの道を模索しています。

プロデューサーに求められるものは?

私が入社した2015年は、マンガ業界全体として、デジタルコンテンツに関しては黎明期でした。集英社としても電子書籍市場へ参入して間もない頃で、電子アプリの「少年ジャンプ+」がリリースされたばかりでしたね。私はこれらのデジタル事業をさらに推進すべく、マンガの電子書籍をメインに、デジタルに紐付いた個別作品のプロモーションやアプリの立ち上げなどを担当していました。

出版社の仕事というとまずは編集者が頭に浮かぶと思います。彼らは作品を磨き上げることに長けています。対して、プロデューサーの場合はじっくりと面白さにこだわって、深くつくりこんでいくような仕事ではありません。プロジェクトを進行させたり、スケジュールを調整したりと、広い視点を持って全体を推し進めることに長けています。編集者とプロデューサーがそれぞれ異なる能力を持つなかで、お互いをカバーし合いながら取り組んでいます。編集者がコンテンツを深堀りし、私がプロデューサーとして社内外とのつながりを構築していく。このような体制を構築することで、新規事業開発部での活動もより推進することができています。

インターネット時代の出版社の真価とは?

集英社ではゲーム事業のほかにも、新たなプロジェクトに取り組んでいます。そのひとつが「マンガテック2020」(注1)という、集英社が主催するスタートアップアクセラレータープログラム(注2)です。アニメやゲーム、グッズなどのマンガに近い領域だけでなく、業種不問のすべての業界で、集英社と一緒に新しいビジネスをはじめたいと考えるパートナー企業を募集しました。

(注1)募集は終了しています。
(注2)スタートアップ企業への出資・協業を目的とした募集。

このプログラムを実施した理由は、出版社だけで新しいビジネスを生み出すことに限界があると感じていたからです。集英社の強みは、やはり作家や編集者といったクリエイターの存在です。日々新たなコンテンツが当社から生まれ続けているからこそ、この強みを活かしながら、さまざまなアイデアや技術を持つ方たちと一緒に仕事がしたいと考えました。ゲーム開発がコンテンツの幅の広さを模索するための動きとするなら、「マンガテック2020」は、新しいビジネスをつくるための動きと言えるでしょう。集英社がマンガやキャラクターに関するノウハウを惜しみなく提供することで、まだ見ぬ新規事業の創出を目指しています。

一方で、現代は作品を発表する場として、マンガや雑誌以外にも多くのプラットフォームが存在しています。出版社を経由しなくても、SNSなどをうまく活用できれば、作家がユーザーに作品を届けることは可能なのです。そんな時代のなかで、出版社が存在する価値は「複合力」にあると考えています。

例えば、マンガ家を目指して頑張ったものの、残念ながら才能を発揮できなかった人がいたとします。これまでならマンガ家を諦め、業界とは別の仕事を選ぶ人もいたでしょう。ですが、そこに私たちがマンガ以外の仕事を紹介することができれば、新たな可能性が生まれると思うのです。作家が集英社でのゲーム開発や、新たなキャラクター制作に携わっていく過程で、自らの眠っていた才能が開花し、再びマンガの世界につながる道が開けるかもしれない。

だからこそ、出版社が複合力を持てば、業界の新しい価値を見出せるのではないかと思うのです。作家たちがマンガのみでなく、幅広い領域で活躍できることをプロデュースできれば、集英社の価値もより大きくなっていきます。クリエイターを尊重し、クリエイターのことを第一に考える。それが私たちの提供すべき価値であり、新規事業を考えていく上でも必須の意識になっています。

プロデューサーという仕事は、アイデアを形に変え、現実的な課題をクリアしながら成功へ導く「アイデアの実現屋」です。この先も集英社で、新しいコンテンツを生み出す過程に携わっていきたいと思っています。

出版社のデジタル化など、変化の激しい時代にどう生きればよいか?

私はこれまで、明確な目標を立ててキャリアを歩んできたわけではありません。偶然にも環境に恵まれて、そのなかを全力で走ってきただけなのです。5年後や10年後の未来に対して具体的な目標を決めているわけではないのですが、その代わり、「どんな波にも乗れる自分でいよう」と思っています。

例えば、10年後の未来にテクノロジーがどれくらい発展しているか、なんてわからないじゃないですか! 2020年に新型コロナウイルスが感染拡大したように、デジタル技術や出版ビジネスも、先のことがどうなるかを正確に予測することはできません。もしかすると、明日には現在の仕事がなくなっている可能性だってゼロではないのです。だからこそ、目の前にある仕事からあらゆることを吸収し、キャリアに厚みを持たせておくことが、もしものときの対応力につながると考えています。いまの歩みの積み重ねを糧に、どんな変化の波が来ても乗りこなせるようにしておきたいですね。

森さんのキャリアや業務内容をもっと知りたい方は、下記をご覧ください。

●集英社の新規事業開発部の仕事に密着。出版社ならではの強みとは?
https://advanced.massmedian.co.jp/article/detail/id=5159

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