子どもの頃から好きなものをたどって見つけた「CMプランナー」という仕事。理想と現実のギャップに悩みながら進んできた/電通 佐藤雄介さん(前編)

子どもの頃から好きなものをたどって見つけた「CMプランナー」という仕事。理想と現実のギャップに悩みながら進んできた/電通 佐藤雄介さん(前編)

「アオハルかよ。」でおなじみの、日清カップヌードルのCMを見たことがある方も多いと思います。

「国民的作品の主人公がもしも日本の高校生だったら」をコンセプトに描かれたこのCM。実はものすごく細かい設定が組み込まれているのをご存知でしょうか。このCMを企画したのが電通のCMプランナー、佐藤雄介さんです。カップヌードルのCMを制作する際、「30秒の映画をつくる」つもりだったとのことです。

この熱意とこだわりは一体どこから湧き出てくるものなのでしょうか。今、業界がもっとも注目するクリエイターの1人である佐藤さんに、お話を伺いました。

写真:佐藤雄介さん
佐藤雄介さん株式会社電通
CMプランナー/クリエーティブ・ディレクター

1984年生まれ。2007年に電通へ入社し、2008年よりクリエーティブ局に配属。2017年に史上最年少でクリエイター・オブ・ザ・イヤーを受賞。最近の主な仕事に、カップヌードル「HUNGRY DAYSアオハルかよ」、ドコモ「星プロ」、ギャツビー「GATSBY COP なんだ有能か」、ポカリスエット「ガチダンス」、マルコメ「世界初かわいい味噌汁」「DJ MARUKOMEプロジェクト」など。

2013年カンヌ広告祭ヤングカンヌ「フィルム部門」にて日本人初のメダリスト。ACC賞、ADC賞、TCC賞、TCC新人賞、ギャラクシー賞など受賞。
【 目次 】
「ミュージックビデオのような尖った映像をつくりたいと思っていたら、CMプランナーにたどりつきました。」
映像制作を通じて、「自分が本当にやりたいこと」を見つけた大学生活
「世の中で話題になるCMってどうやってつくるんだろう?」と疑問に思う日々
「テレビ離れ」はCMプランナーの脅威ではないかもしれない

「ミュージックビデオのような尖った映像をつくりたいと思っていたら、CMプランナーにたどりつきました。」

──佐藤さんはもともと、ミュージックビデオ(以下MV)を見るのが好きだとお伺いしましたが、特に好きな作家さんはいましたか?
高校生くらいのときからMVを見ることにハマっていましたが、特に海外のディレクターがてがける作品が好きでした。王道ですが、ミシェル・ゴンドリーにはかなり影響を受けたことを覚えています。その頃はまだYouTubeができたばかりで、MVを見る環境が満足になかったので、動画シェアサイトや友だちに借りたビデオクリップ集を熱心に見ていました。

また、僕が高校生くらいのときはMVをつくっていた人が映画も撮るという風潮が大きくありました。僕が影響を受けた監督の中の1人であるデヴィッド・フィンチャーはまさしくそのタイプですね。いま思えば他の好きな映画監督もプロモーションビデオやMV出身の人が多かったと思います。作中で伝えたいことやアイデアがはっきりしている作品に惹かれていたのでしょうね。

──なるほど。では、海外のMVや映画の魅せ方に影響を受けていたんですね。
いや、海外作品だけではないですよ。邦楽アーティストのMVも見ていました。当時は音楽業界がものすごく盛り上がっていて、CDもすごく売れていたんです。だからMVも面白いものが多かったし、アーティストのCMもテレビでたくさん流れていました。SMAPやJUDY AND MARY、L’Arc~en~CielのMVは印象に残っています。そんな話を学校の後輩としていたら、「実はMVはCMプランナーが関わってるのもあるらしい」と教えてもらったんです。

もともとテレビも、CMという表現も好きだったので、CMプランナーって面白そうだなぁ、と思いました。それが高校生の時でした。進路の決断が早かったぶん、良くも悪くもその後の視野は狭くなったかもしれないですね。笑


映像制作を通じて、「自分が本当にやりたいこと」を見つけた大学生活

──佐藤さんは、CMプランナーになるためにどのような大学に入学されたのでしょうか?

高校生の頃、将来について悩んでいたんですよ。今までは周りに流されてなんとなく「みんながいいと思う」方向に進んでいただけでした。でも将来だけは「自分がなりたいもの、したいこと」を選びたかったんです。僕はMVのディレクターが好きだったから、自分もそんな映像に関係する仕事をやりたい。そう思って進学したのが日本大学藝術学部の放送学科でした。

実はこの学科、絵が描けなくても入れるんですよ。僕は絵は上手くないので。笑 大学時代は遊びの延長で、実際に友達と映像つくったりしていました。大学時代の一番の財産は、同じような趣味を持つ友人と出会えたことだと思います。「こんなマニアックな人がいるんだ!」と思える友人たちと遊んで、映画や、音楽、MVについて話して、教えてもらったりと、そんな経験が大きかったと思います。

──就職活動の方はいかがでしたか。
撮影や編集など一通り経験したなかで、「自分は映像のディレクターよりも、企画やアイデアを考えるプランナーの方が向いていそうだ」と感じました。思い返してみれば、小学生のときから“何か”を企画してみんなに発表するのが好きだったなと。

給食の時間に自分で考えた話を放送しているようなタイプでした。思春期になると、とたんに恥ずかしくなってそんなことはやらなくなったのですが、大学でまた制作や企画について考えるようになって、改めて「企画すること」が好きだと感じました。自分の方向性が決まったところで仕事について調べてみたら、映像に関わり、かつ、企画ができるのは、やっぱり「CMプランナー」らしいぞ、と。そして、CMプランナーという職種がある企業は少ないらしいことが分かりました。そこで初めて、広告代理店の電通という会社を志望することになったのです。

「世の中で話題になるCMってどうやってつくるんだろう?」と疑問に思う日々

──電通に入社して、長年の夢であったCMプランナーとなったわけですが、なにか印象的なことはありましたか?
印象的なことはたくさんありますが、一番大きかったのはそもそも「話題になるCMって全然つくれない」という、現実とのギャップですね。CMプランナーになったら、自分のアイデアがそのまま形になって世の中に放送される瞬発力のようなものが味わえると思っていました。実際は、クライアントのミッションや課題、予算などいくつもの条件があって、そこに当てはまらないものはまず弾かれてしまいます。

また、仕事を進めていくと、次々と状況が変わっていくので、最初に考えたアイデアが、気づくと原型がなくなっている、ということがほとんどでした。そして紆余曲折を経て、ようやくできたCMが放送されても全然話題にならない。やりがいはあったけど「企画したCMが世の中で話題になる」という理想と、かけ離れすぎた現実には相当苦しみましたね。自分のスキルが圧倒的に足りないことを思い知ったし、「世の中で話題になるCMってどうやってつくるんだろう?」と疑問に思う日々でした。

──そのギャップを克服できたきっかけはありましたか?
なにか1つ大きな経験をしたというより、段階的に徐々に克服していったという方が近いです。1つ目は、小規模でしたが、一度、本当に自分がおもしろいと思える映像の企画が実現できたことです。実現できると、自信に繋がるし、その仕事を面白がってくれる人もいて、より大きな仕事に繋がりました。

2つ目は、広告に課せられる「条件」を楽しめるようになったこと。新しい条件が生まれるたび、それによって、もっといい企画にできないかな?と、ポジティブに考えるようになりました。ですので、今は最初のアイデアにもこだわらない。アイデアを、クライアントやチームと転がして、どんどん発展させていくほうが、結果的に面白いことに気付きました。

3つ目は、CMだけでなく、キャンペーンやイベント、ポスターなど複数のチャネルに携われるようになったことです。僕はいまCMプランナーの他にクリエーティブ・ディレクターという肩書を持って仕事をしています。あらゆる課題をCM1本だけで解決しようと考えると無理があります。ですので、あらゆるチャネルを駆使して、それぞれの役割をうまく使い分けながらキャンペーンをつくっていきます。面白いCMをつくるための土壌や環境から設計している感じです。


「テレビ離れ」はCMプランナーの脅威ではないかもしれない

──CM以外のチャネルやクリエーティブにも携わっているんですね。
僕が入社した当時は、広告といえばテレビCMでした。5年くらい経ったときに、Web広告が少しずつ台頭してきたんです。そして、僕みたいにマス広告に携わっているけれど、「うまくいかない」とか、「思っていたのと違う」といったもどかしい思いをふつふつと持っている若手が、「影響力はマス広告に劣るけど、自由な表現ができる」Web広告に挑戦して、Webの面白さを知るようになったんです。

他には社会との接点の持ち方という意味で、PRの領域も知りました。一通りいろんな経験をしてからマス広告を担当するようになったら、「Webのことが分かるCMプランナー」と珍しい存在になっていました。やれることを増やしたことで、結果、最初にやりたいと思ったCMがのびのびとできるようになったんです。

──でも今って、テレビ離れを筆頭に若者がいろんなものから離れてしまっていますよね?そこを実感することはありますか?
たしかに「誰もが知っているテレビCM」をつくるのはすごく難しいですね。YouTuber動画やインターネットテレビ、NETFLIXなどCMと競合する映像コンテンツが増えていることは事実です。とはいえYouTuberと協力してCMをつくることもあれば、インターネットテレビを活用した広告をつくることもあります。「競合」や「脅威」と呼ばれているものが、実は協力できる味方だったりするのは広告のおもしろさの1つかもしれません。テレビ離れと言われてますが、まだまだテレビCMの影響は強いのは事実です。

ただ、テレビに縛られることがなくなったことにより、かえって広告クリエーティブはすごく自由度が高くなったと実感しています。昔は15秒、30秒の尺でメッセージを伝える職人芸的なおもしろさがCMプランナーには求められていたのですが、今は、それだけじゃない。Webでの広がりや、イベントから考える表現もあるし、CMの秒数もメディアによって変えていい。「なんでもアリ」な表現が楽しめるのは、今の広告ならではだと思います。

後編はこちらから

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