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データへの好奇心が、新たなキャリアを切り拓いた/東洋経済新報社 「東洋経済オンライン」編集部 データジャーナリスト 荻原和樹さん

データへの好奇心が、新たなキャリアを切り拓いた/東洋経済新報社 「東洋経済オンライン」編集部 データジャーナリスト 荻原和樹さん

120年以上の歴史を持ち、『週刊東洋経済』『会社四季報』などの経済誌やビジネス書などを発行している東洋経済新報社。社内唯一のデータジャーナリストとして活躍する荻原和樹さんは、2020年2月に特設サイト『新型コロナウイルス 国内感染の状況』を制作しました。「データビジュアライゼーション(データ可視化)」によって情報整理された同コンテンツは、SNSを中心に大きな話題を呼びました。そんな荻原さんは2010年に入社後、データベースやWeb開発の仕事を担当しながら、どのようにして新たな職種を開拓したのか。お話を伺うなかで、荻原さんのこれまでの歩みと、「好奇心への一歩」を踏み出す大切さが見えてきました。(マスナビ編集部)

写真:荻原和樹さん
荻原和樹さん東洋経済新報社 「東洋経済オンライン」編集部
【 目次 】
現職に入社した経緯は?
どうしてデータジャーナリストになったの?
どのようなコンテンツを制作してきたの?
学生のみなさんへメッセージ

現職に入社した経緯は?

私は大学時代に社会心理学を学んでおり、調査や実験で得たデータを分析し、人々の行動傾向を分析するという研究に携わっていました。そのため、将来もデータを扱える仕事がしたいと考え、就職活動ではマーケティングリサーチ会社やコンサルティング会社を中心に選考を受けていました。はじめからマスコミ業界を目指していたわけではなかったんです。

しかし、東洋経済新報社の採用情報を見たときに「記者・編集」とは別に「データ事業」という枠があることを知り、気になってエントリーすることにしました。選考のなかで詳細を聞いてみると、展開している書籍や雑誌、Webメディアなど、さまざまなコンテンツに、独自のデータを活用していることを知りました。それまでクライアントワークのなかで調査・分析を行う職種を見ていた私にとって、自社のデータ活用における幅広さがとても魅力的に感じ、データ分析をするエンジニアとして入社することを決めました。

どうしてデータジャーナリストになったの?

所属していたデータ事業局では、自社のデータベース管理やWebサービス開発などの業務を担当していました。ですが、希望していた「データに携わる」ことはできていたものの、内容としては既にあるデータを運用することが中心で、次第に「価値があると感じるデータを自分で分析したい」という思いが強くなっていきました。

それからデータの活用方法を模索していくなかで、「データジャーナリズム」と「データビジュアライゼーション」というものがあることを知りました。「データジャーナリズム」とは調査報道手法の一つ。膨大なデータを分析することで、これまで明らかにされていなかった真実を可視化することが可能となります。その可視化のために用いられる技術が「データビジュアライゼーション」。データをグラフや図で分かりやすく表現することで、人々が短時間で、直感的に内容を理解できるようにするというものです。

この領域に携わるためにはどうすれば良いかを考えたとき、まずはデザインを学ぶべきだと思いました。どうせスキルを身につけるのであれば、仕事と平行してではなく、しっかりと勉強に専念できる期間を設けたい。そこで会社の留学制度を利用し、データジャーナリズムの先進国であるイギリスの大学院へ1年間留学し、デジタルデザインを学んできました。

帰国後は、所属していたデータ事業局ではなく、Webメディア「東洋経済オンライン」の編集部に配属となりました。それまで社内では本格的なデータビジュアライゼーションを用いたコンテンツを発表したことがなかったので、身につけたスキルをすぐに活かせたというわけではありません。まずは編集部でのアクセス分析や、記者・編集者向けのツール開発といった仕事をメインに担当しながら、スキマ時間を活用して少しずつコンテンツを制作してきました。すると、周囲の人々からもデータビジュアライゼーションの価値を認めてもらえるようになり、会社に貢献できるコンテンツも徐々に増えていきました。

どのようなコンテンツを制作してきたの?

左から『甲子園投手たちはどれだけ「過剰」な投球をしているか』『グラフィックで振り返る2019年の台風・豪雨災害』

私が制作しているコンテンツは、「静的なインフォグラフィック」と「動的なビジュアライゼーション」の2種類に分けられます。

まず「静的なインフォグラフィック」とは、情報やデータを1枚の画像で視覚的に表現したもの。複雑な内容をグラフや相関図などを用いることにより、わかりやすい形で情報を届けることができます。ポスターなどの紙媒体に印刷できるため、近年は広告に用いられているケースも多いですね。2019年8月に制作したインフォグラフィックでは、歴代の甲子園投手たちの投球数を、アメリカの投球制限ガイドライン「Pitch Smart」に当てはめた画像をつくりました。一目見るだけで、彼らがどれほど過剰な投球を行っていたかがわかるようになっています。

対して、「動的なビジュアライゼーション」は画像と異なり、ユーザーのアクションに対してインタラクションのあるコンテンツを表しています。例えば、2019年12月に制作したコンテンツでは、国内の降水量データをグラフィック化し、日本地図上の立体的なグラフとして表現しています。さらに、画面内のボタンを押すことで表示が変化し、日付別や地域別の降水量を見ることも可能となっています。ものごとの変化やストーリーをアニメーションで伝えられるのが大きな魅力ですね。

特に大きな反響があったのが、『新型コロナウイルス 国内感染の状況』というダッシュボード。これは新型コロナウイルスの第一波が拡大していた2月中旬ごろ、編集長から相談を受けて制作をはじめました。当時はインターネット上で大量の情報が飛び交っており、それに振り回された人々が、いわゆる「コロナ疲れ」に陥っていました。この状況を改善するためにも、まずは確実なデータを収集し、それを誰もが冷静に把握できるWebサイトをつくるべきだと考えました。例えば、報道されているニュースのなかには、感染者や死者数を示すグラフや、特定の地域が派手な赤色で表示されていることがあります。印象には残るかもしれませんが、それだと人々の気持ちが余計にあおられるし、一部地域への差別や風評被害が生まれる恐れもあります。制作したダッシュボードでは、背景を暗くして、青緑色を用いた落ち着いたデザインに統一しました。配色や地図上の表現に差をつけるのではなく、すべての情報をフラットに観察できるものにしています。

公開されたコンテンツは大きな反響があり、国内のコロナに関連する報道コンテンツのなかで、トップのシェア数を記録しました。実際にユーザーのみなさまからも「こんなコンテンツを待っていた」「これなら安心して情報をチェックできる」といったお声をいただき、人々がどれほど情報に振り回されていたかを再認識し、貢献できた嬉しさを感じられました。

『新型コロナウイルス 国内感染の状況』

学生のみなさんへメッセージ

可能性を狭めることなく、挑戦し続けてほしいと思います。学生のうちから将来のことを考えきれている人は少ないですし、職種のあり方も日々変化しています。何もせず不安を抱えるのではなく、少しでも興味を持った世界に飛び込んでみてください。その繰り返しのなかで、得意なことや面白いと感じることが見つかり、社会人としてのキャリアにつながるはずです。

私も就職活動中は「なぜこの仕事がしたいのか」という根拠を持てず、どのような道に進むべきか悩んだ時期もありました。「データに携わりたい」という答えにたどりつくまでには、かなりの時間が掛かってしまいましたね。それに、報道とは直接関係しない部署からキャリアをスタートした自分が、データジャーナリストとして働く未来なんてまったく予想していなかったし、この10年間で業界も大きく変化しました。

報道業界は「アナログな仕事」という印象が強いかもしれませんが、近年では記者がいろんなデジタル技術を使うようになってきました。また、データジャーナリズムの普及によって、記者や編集者だけでなく 、デザイナーやエンジニアが報道に関わる場面も増えてくると考えています。今は関連性のないことを学んでいる人でも、ジャーナリズムへの関わり方は今後さらに多様化していくと思いますので、少しでも興味を持つ人には是非チャレンジしてもらいたいですね。

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