どんな社会にしていきたいか?人間が決めることで、AIはもっと役立つ存在になる<イベント終了後対談>

どんな社会にしていきたいか?人間が決めることで、AIはもっと役立つ存在になる<イベント終了後対談>

「AIは広告をどう変えるか?」約120分にわたる熱いトークイベントとワークショップ終了後に、株式会社電通 シニア・コミュニケーション・デザイナー/クリエーティブ・テクノロジスト 大瀧篤さんと一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)有識者会員 工藤郁子さんのお二人に、改めてイベントの感想と伝えきれなかった思いをお話いただきました。(マスナビ編集部)

写真:電通 大瀧篤さん、JDLA 工藤郁子さん
電通 大瀧篤さん、JDLA 工藤郁子さん
【 目次 】
Instagram世代から生まれる新しい視点
大学生の頃、まったく違うことに熱くなっていた
AIが変えるのではなく、私たちがどう変えたいか?
今、夢中になっていることを全力で

Instagram世代から生まれる新しい視点

──さきほどはAIの新しい視点をたくさんお話いただきました。まず今日のイベントの感想をお二方からお聞かせいただけますか?
大瀧:大学1年生も参加されていて、若い世代のキャッチコピーに希望を感じました。今回は「夏」という、あえてざっくりしたお題で考えてもらったのですが、あの子たちの見えているリアルな景色で、夏を切り取っているんです。例えば、「SNS越しに見る」気になるあの子の浴衣姿について。すべてハッシュタグで夏らしさを描いたインスタ世代らしいコピー表現でした。コピーが上手なこと以上に、自分自身の人生が反映された目線が大事。ほかの誰でもない、その人が書く理由になるからです。実体験が入ることで、僕ら以上の世代が持っていない視点がそのまま価値になる。それは、コピーだけの話ではなくビジネスをつくる上でも同様です。彼ら独自の眼差しから新しい事業や組織が生まれると素敵ですね。今日来てくれた人は特に意識が高いのかもしれないですが、積極性もあるし前向きなのは超いいです。

工藤:本当ですね。一緒に働きたい人だ!と思いました。突然ワークショップをやっても、あんなふうに隣の人とちゃんと話せるなんて、みんなコミュニケーション能力が高い。そして現在の自分と将来の自分に、ネガティブなイメージを持っている人が少ない。みんなポジティブで明るいし、素敵だなと感じました。

大学生の頃、まったく違うことに熱くなっていた

──お二人の大学生の頃のお話も伺えますか?どのような勉強や活動に勤しんでいたのか。そして子どもの頃はどんなことがお好きだったのかお聞きしたいです。
大瀧
:僕は人工知能や複雑系情報処理を扱う研究室で、大学院まで研究をしました。

また、双子で1時間早く生まれた兄です。弟は病院でリハビリテーションの先生をしつつ、東北大学医学研究科の博士課程で脳の研究もしています。双子同士、少し違いますが理系の道へ進みました。弟とは中学からテニス部でダブルスを組んでいて、仲が悪いと勝てないので、無理やり仲良くなりましたね(笑)。高校もテニスを一緒にすべく同じ学校へ進学しました。進学校だったものの学業は完全にそっちのけで、県では2位、東北3位、全国も経験したのですが、結局1位にはなれず悔しさも残りました。

双子あるあるですが、小テストの結果からバレンタインにもらえたチョコの数、さらには恋愛まで、なんでも周りから比較されて悩みも多かったです。エスカレートしすぎて、通っていた公文式の数学は競っているうちに小6で高校レベルに進んだことはラッキーでした。とはいえ、理系少年というよりスポーツ少年で、将来のことは全然考えていませんでした。大学進学のとき、兄弟でやりたいことを立ち返って、弟は医療系に進みました。これは母が病院や介護施設で働いている影響があります。僕はモノづくりが好きでクリエイターになりましたが、弟と同じく医療や福祉に貢献したい気持ちがありました。家族といつか仕事がしたいと思っていて、4年近く取り組んでいる「ゆるスポーツ」で実現できました。弟と母をスポーツクリエイターにして、とある施設のリハビリゆるスポーツをゼロから一緒につくったんです。施設の教科書にも載って、本当に嬉しかったですね。

工藤
:双子のライバル関係って面白いですね。そして大瀧家の今後も面白そうですね!
私は法学系の出身で、法科大学院に行きました。法学を選んだのは一番つぶしが利きそうだから、という理由です。弁護士さんは仕事をしながら研究をする人も多く、そういう生き方をしたいと思っていました。だから今も半分研究で半分コンサルというスタイルです。

学生の頃は、美術系サークルに入り、絵を描いたり陶芸したり共同制作したりと遊びに夢中で、働きたくない気持ちで大学院へ進学しました。大瀧さんはなぜ大学院へ進学したのですか?

大瀧:実は、学部の時にITコンサル会社から内定をもらっていましたが……内定式直前に「やっぱり心残りがあるので辞退させてください」と告げました。というのも、月面探査機の「ローバー」という、人がいけない場所に行って撮影したりサンプルをもってきたりするロボットをチームでつくっていたんです。その技術を競う世界大会に出場したけれども、ずっと失敗続きで順位がつかなかった。僕が入った頃になんとか7位に入賞して感動しつつも、悔しくて。大学院で引き続きつくって、絶対にこの大会で優勝したいと思ったのです。結果、優勝できました! テニスで1位を取れなかった分、リベンジしたかったのかもしれません。

大学院に進んだのは完全に月面探査ロボットの世界大会優勝が目標でした。10名くらいのチームで取り組んで、僕はプロジェクトリーダーとして勝つための戦略やアイデアを決める立場でした。学部のときは先輩方がいたのでモノづくり寄りでしたが、自分の代では「根本的に戦い方を変えよう!」と。

──どちらかというと今日のイベントのテーマの「AI」というより「宇宙」へのモチベーションがあったということですね。就活はどんなふうにされました?

大瀧:就活はすっかり出遅れて、みんなが電通や博報堂のインターンをうけている夏に、砂漠でロケットを打ち上げたり、ローバーを走らせたりすることに没頭していました。その後はJAXAの選抜学生として、海外でローバーの普及活動を開始。その中で、モノやサービスをつくり「世の中に届ける」ところまで注力する仕事がやりたいと思うようになりました。電通はちょうどその頃、広告だけではなくARアプリやプロダクトを開発して世に発信しはじめた時期で関心を持ちました。

実際に面接を受けた企業は7~8社ほど。いくつかの内定先から入社先を選ぶ際は、やりたいことは変わるものだから最後は「人」で選びました。学生時代に選んだ研究室もそうです。はじめは研究に興味がなかったけれども、先生がめちゃくちゃ面白かった。研究者版の松岡修造のような熱い方です。社会に大きなインパクトを与えるコトをやろう!といつも鼓舞してくれました。高校ではスポーツ全振りだった自分が、研究に没頭し気づけば学長賞と副総代で卒業できました。

AIが変えるのではなく、私たちがどう変えたいか?

──AIの可能性についてはどうでしょう。お二方からそれぞれ一言で教えてください。
大瀧:当たり前のようで大事な視点があります。それは、AIがいかに賢くなっても「人間ではない」ということです。つまり、社会にとって意義のある投げかけなのに、ある個人が表立って言えないようなことを、AIが代わりに世の中に投げかけることができます。AIコピーライターのAICOを使ってつくった意見広告の事例は、そのチャレンジの一つです。

例えばジャンダー、働き方改革など、議論しなければならないことなのに、人がなにか意見すれば炎上して議論が進まなくなることがある。そういうセンシティブなテーマを日本人は議論でなかなか深められない。ならばAIに言わせたらフラットに投げかけられる。AIは空気を読まず、中立の立場で、なにかメッセージを残すことができます。AI自体の価値は、広告に限らず希望があります。

工藤:「AIでどう社会は変わりますか?」とよく聞かれますが、私の答えはいつも同じです。予測することは大切ですが、「どういう社会をつくりたいか?」という問いを先に持つべきです。AIは、開発者が、人の生活や社会をよくしようと思ってつくったはず。あるべきビジョンに沿って開発されている。むしろ「AIを使ってなにを実現したいのか?」を話したほうが有意義です。AIは悪用される恐れがある…というのも聞かれますが、それもAI自体の問題より、だいたいは悪用する人間側の問題。人間を分析したほうが早く課題が解決するのではないでしょうか。

ところで、先ほど大瀧さんがAIは人間でないからこそできる役割があるとおっしゃいました。確かに、AIが責任を取れないというのは、法学上も取り組むべき課題です。さらにケアしないといけないポイントは、AIが人間っぽいところ。AICOもAIですがキャラクターが見える。人工知能は、人に似たものとして受けとめられやすく、身近に感じ、自分ごと化しやすい。だからこそ雇用を奪われるという怖さや不安を抱く人もいる。ただ、うまく設計すると身近に感じられるのもメリットです。AICOのインターフェイスはよくできています。実際に電通社内の人が、怖がらずに友人みたいにAICOと付き合って、うまくリレーションシップを結べていますしね。

大瀧:AICOは永遠の新入社員なんです。賢くしすぎないようにキャラクター設定しています。空気を読まずにへんてこなことを言う新入社員がいるとブレイクスルーします。ベテランのコピーライターとの違いはそこですね。今日もそうでしたが、あえて完璧にしない。お茶目さを大事にしようと。温かい使い方ができるようになればと思います。今日ご紹介した、AIが新しい肩書きを提案してくれる「2枚目の名刺メーカー」や、社員の気分に合わせて社食パンの価格を変動させた「d-emoji/d-emopan」は、社員のコミュニケーションを促進する狙いでつくりました。

工藤
:大瀧さんはビジョンがしっかりしていますよね。「AIを使うことで、こういう社会にしたい」という姿勢。仕事を終えて、早くおうちに帰ろうとか。

大瀧:AICOはこれまで研修で捨てられてきたコピーも餌にして学んでいます。今までのコピーライターはキャッチコピー100本ノックをしてきたわけですが、これからはそれが要らないのかというとそうではありません。AICOが賢くなるにはそれも必要なのです。当然、100本ノックは企画力を鍛える若手にとっても意義がある。家族のために早く帰りたいベテランと、がんばる世代の新入社員、役割分担というのもありますね。

今、夢中になっていることを全力で

──それでは最後に業界を目指す学生へメッセージをお願いします。
大瀧:今やっていることを全力でやってください。自分が夢中になっていることを大事にしてほしい。新入社員のスマホのなかにどんなアプリが入っているかを見せてもらうだけで、僕ら先輩からしたら情報価値が高い。今ど真ん中のことを楽しんでもらえたら、それだけで武器になると伝えたいです。それと、何かを決める時、僕は「人」が軸でした。自分にとって変わる価値観と変わらない価値観、それを振り返って自身の軸を見つけてください。

工藤:私は、迷ったら小さく試してみることをお勧めします。その場合、仮説を立てることと、撤退ラインを決めることが大切です。探索アルゴリズムで「ランダム探索」というのがありますが、それに似ています。探索の初期には何度かランダムに点を取ってみて、徐々にランダム性を減らして、試した中で最も良さそうなところから、さらに最大値を探す方法です。複数の「山」がありそうで、できれば「最も高い山」に登りたいが、しかし、全体を見渡すことができないときに有効な方法です。一箇所だけに決めず、当たらなければ別のところへ登ってみる。行きつ登りつして、仮説を検証する。自分になにができそうで、なにが合っているかわからない初期段階では、有効ではないかと思います。

そして、山の頂上は人それぞれです。自分は、どういう状態が快適か、どういう社会を目指しているか。それを見つけるために熱中し、自分のワクワクする感覚をよく覚えておくとよいと思います。


イベントレポートはこちらから読むことができます。

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