ニッポン放送プロデューサーが語る、メディアの変化とラジオのこれから/ニッポン放送 エンターテインメント開発部 プロデューサー 石井玄さん

ニッポン放送プロデューサーが語る、メディアの変化とラジオのこれから/ニッポン放送 エンターテインメント開発部 プロデューサー 石井玄さん

全国放送の人気ラジオ番組「オールナイトニッポン」のキーステーションとして知られる、ニッポン放送。今回は「オードリーのオールナイトニッポン」などのディレクターを務め、現在は同社のエンターテインメント開発部にて、プロデューサーとして活躍する石井玄さんにインタビューを行いました。インターネット発の音声コンテンツが普及するなか、ラジオ業界の現状や、リスナーの心をつかむための取り組みについて伺います。(マスナビ編集部)

写真:石井玄さん
石井玄さんニッポン放送 エンターテインメント開発部 プロデューサー
【 目次 】
ラジオ業界でのキャリアはどのようにスタートしたの?
前職で印象に残っている業務は?
ニッポン放送での業務内容は?
ラジオ業界はどのように変化しているの?
学生の皆さんへメッセージ

ラジオ業界でのキャリアはどのようにスタートしたの?

高校時代からラジオが好きで、お笑い芸人がパーソナリティーを担当する番組を毎日聴いていました。大学時代の私は将来どんな仕事に就きたいか迷っていたのですが、どうせなら好きなことをしようと考え、大学卒業後に東放学園専門学校で2年間学んだ後、ラジオ番組の制作会社のサウンドマン(現ミックスゾーン)に入社しました。

私が入社したのは、東日本大震災が発生した2011年。社会全体が混乱しているなか、先輩社員たちは不眠不休で災害情報を提供し続けていました。一方で、そのとき研修期間中だった私は何の役割も果たすことができず、自分の無力さを痛感していました。その悔しさをバネに、少しでも早く戦力になろうと、震災が起きたときに一刻も早く一人前のAD(アシスタントディレクター)になりたいと強く思いました。通常であれば、経験の浅い新入社員がいきなりADになることは難しい。はじめはわからないことが多すぎて毎日先輩に怒られ続けていましたが、それでも必死に仕事を覚えているうちに、ADとして独り立ちすることができるようになりました。最初に自分の無力さを味わったことが糧となり、いち早く成長することができたのです。

前職で印象に残っている業務は?

ラジオ業界で働く以上、やはり大好きなお笑い芸人の番組を担当したいという思いがありました。それで半年ほど社内アピールを続けた結果、オードリーさんがパーソナリティーを務める「オードリーのオールナイトニッポン」にADとして参加することになりました。入社1年目にして、学生時代からの念願をかなえることができたのです。この番組は途中からディレクターとしても携わるようになって、2020年6月までのおよそ9年間に渡って担当してきました。

特に印象に残っているのが、2019年3月に開催した「オードリーのオールナイトニッポン 10周年全国ツアー in 日本武道館」です。これは来場者が1万2000人、ライブビューイングでも1万人に及ぶリスナーが参加したライブイベントで、オードリーのお二人によるフリートークや漫才、番組内での名物企画などを実施しました。日本武道館という大舞台にこれほどたくさんのリスナーが集まってくれて、そこで担当番組のパーソナリティーがトークをして、みんなが笑ってくれる。普段はリスナーの顔が見えず実感が持てませんでしたが、このイベントを通じてラジオという音声コンテンツの価値を再認識できたし、ラジオをさらに発展させたいと強く思うようになりました。

業界を盛り上げたいと考えるなかで、一人の番組ディレクターとしてできることに限界を感じはじめていました。ラジオ番組はリスナーの存在があってこそですが、リスナーにとって最もショックなのは、大好きな番組が終了してしまうこと。それを防ぐためには、我々スタッフが全力を注ぎ、より良い番組をつくり続ける必要があります。しかし、私はディレクターとして担当番組が増え続けていき、膨大な仕事量になった結果、一つひとつの番組に全力を注ぐことができなくなり、それがストレスになっていました。

それと同時に、ラジオ番組が続いていくためにはディレクターとして内側にいるのではなく、外側から貢献できるのではないかと考えはじめたのです。9年間のなかでディレクターとしてやりたいことは実現できたし、後輩たちも成長し、ちからをつけてきた。ならば私も次のステージに進むタイミングだろうと思い、ニッポン放送の中途採用試験を受ける決意をしました。

ニッポン放送での業務内容は?

中途採用試験をクリアすることができ2020年8月に入社し、現在エンターテインメント開発部に所属しています。12人のメンバーで構成されているこの部署は、管理職含めて全員がプロデューサーとして活動しています。業務はイベントや舞台の企画・運営、コラボグッズの制作など多岐に渡りますが、内容はいずれもプロデューサー個人の裁量に委ねられている、社内でも珍しい部署だと思います。

私は「オールナイトニッポン0(ZERO)」のパーソナリティーであるテレビ東京プロデューサー 佐久間宣行さん、人気動画クリエイター 水溜りボンドさんの番組イベント(※)を企画しています。また前職で担当していた「オードリーのオールナイトニッポン」のグッズ制作も行っており、これまでの経験を活かしながら取り組んでいます。ただし、どんなに面白い企画であったとしても、利益を得られなければ会社の発展にはつながりません。反対に利益を得られる企画であったとしても、リスナーが損をしたと感じるような企画では信頼を失ってしまう。自由度高く活動できる分、プロデューサー一人ひとりが、ラジオという音声コンテンツのあり方を考え続ける姿勢が求められています。

※2021年1月7日に発令された緊急事態宣言を受け、1月11日に予定されていたイベントは中止。代替企画として、オンラインイベント「佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO) リスナー小感謝祭2021~Believe~」が同日開催されました。

ラジオ業界はどのように変化しているの?

キャリアがスタートしてからの約10年間で、メディア業界全体は大きく変化していると感じています。ラジオの場合、2010年に開始したインターネットラジオサービス「radiko」によって、革命が起こりました。それまでのラジオは専用機器を持つ人たちだけが、オンタイムでのみ聴くことができました。いまではスマートフォンで誰でもラジオを楽しめるようになり、気軽にラジオが聴けるようになったことで、リスナーの全体数も増加しています。また、インターネットとかけ合わせたことで「いつ、誰が、どのコンテンツを楽しんでいるか」というマーケティングにも活用し、放送局からスポンサーに対する営業活動の具体性も向上させることができました。もう一つの大きな変化は、リスナーがコンテンツを選べる時代になっているということ。タイムフリーなどの機能が充実し、番組をオンタイムで視聴する人は少数派となりました。Apple PodcastやSpotifyをはじめ、ポッドキャスト形式での楽しみ方が、音声コンテンツの主流になっていくのは間違いないでしょう。

とはいえ、ラジオならではの魅力は何かと考えると、やはり「生放送であること」が重要なポイントです。聴き方を選べる時代だからこそ、リスナーと同じ時間を共有していくことが、ラジオ業界にとっての活路になるのです。そこで私は、パーソナリティーや番組との新しいコラボグッズを制作し、番組と連動させながら販売する仕組みを検討中です。またリスナーが会員になれる月額制ファンコミュニティーをつくり、過去の放送回や撮りおろし音源の視聴、限定グッズのプレゼント、イベント参加券の優先購入など、いわゆるファンクラブのようなサービスもつくりたいと考えています。これらが実現すれば、パーソナリティーとリスナーの距離をさらに縮められるし、たとえスポンサー企業がいなくなったとしても、リスナーに支えられながら番組を続けることができる。時代の変化に対応しながらも、ラジオが生き残る術を模索し続けたいと思っています。

学生の皆さんへメッセージ

私は「ラジオに関わりたい」という一心で業界に飛び込み、ディレクターとしてキャリアを歩んできました。そのなかで常々感じているのが、何か一つのことを突き詰めていれば、その経験は異なる分野にも活かせるということ。ニッポン放送でプロデューサーとして取り組みはじめた現在でも、グッズやイベントを企画・運営するなかで、ディレクター時代の考え方がとても役立っています。学生の皆さんも、スポーツや音楽など、いま夢中になっていることであれば何でも良いです。異なる領域であっても、とことん追求した経験は、必ず未来のキャリアにつながるのです。

また、これからラジオ業界を目指す若い世代には、「若い世代ならではのコンテンツ」をたくさん生み出してほしいと思います。若いリスナーの共感を得られるのは、同じく若い世代がつくる番組です。ラジオは歴史あるメディアですが、今を生きる皆さんならではの感性を活かして、これからのラジオ業界を盛り上げてほしいです。そのなかで「ラジオって面白いな」と感じてくれる人が、今後さらに増えることを願っています。

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