クリ活インタビューを通して感じた「これからのクリエイター像」 <編集長座談会>

クリ活インタビューを通して感じた「これからのクリエイター像」 <編集長座談会>

現在好評発売中の『クリ活2 クリエイターの就活本』シリーズ。その本誌に掲載されている、『クリ活2』編集長の三者による座談会の内容を特別にマスナビに掲載! さまざまなクリエイターに会って感じたことから、これからの広告業界やクリエイティブ職はどうなるの? といった未来予想まで、語り合いました。クリエイター志望の学生は必見です!

写真:井本善之さん、大瀧篤さん、尾上永晃さん
井本善之さん、大瀧篤さん、尾上永晃さん
【 目次 】
取材で印象に残っている話
クリエイターの対応領域が広がっている。ずっと飽きない仕事
デザイン・コード・アイデア手段を問わずに、ゴールを示せる素養が必要

取材で印象に残っている話

井本:取材をたくさんして、印象に残った人が多くいたと思います。大瀧さんどうでしたか?

大瀧:デジタルクリエイティブ編で取材した皆さん全て印象的でしたが、直近で取材させていただいたライゾマティクスの真鍋さんの一言が記憶に残っています。「次々に出てくるテクノロジーの新しさを追っていく中で疲れて立ち止まる瞬間ってありますか」と聞いたら、「そうならないように常に、自分が新人でいられる場所を持っておく」と答えてくれました。例えば日本だと第一人者扱いをされてしまうから、自分のことを知らない人も多い海外の展示会仕事にあえて身を置くそうです。そこでは新人としての作業もすることになる。新人の初心と緊張を常に持つことで、走り続けられると。僕らのように、ある程度仕事をしてきた人間にとってもすごく参考になる話でしたし、学生の皆さんにとっても勇気をもらう言葉なのではと思います。

尾上:プランニング・コピーライティング編では、ほとんど全員にトラウマがあるのが特徴的でしたね(笑)。過去にあった何か嫌なこと、学生時代パッとしなかったことを払拭するために、今頑張ってやっているという話が多かったです。

井本:アートディレクション・デザイン編も、本当に皆さん個性がバラバラで、全ての話が印象的でしたね。活躍されているアートディレクターの皆さんのお話はもちろん、特にロバートの秋山さんの企画方法を伺えたり、予備校時代の後輩でもある漫画家のかっぴーの話が聞けたのは、就活本としてはレアな人選で自分もワクワクしましたね(笑)。

『アートディレクション・デザイン編』編集長 井本善之さん

クリエイターの対応領域が広がっている。ずっと飽きない仕事

大瀧:井本さんは2013年発刊の『クリ活1』から携わっていますよね。時代の変化なども含めて前回との違いはありましたか?

井本:1の時よりも、クリエイターの方々がどういうことを考えてモノづくりをしているか、どのような人生を経てセンスや感覚を形成したのかなど、就職活動以外にも突っ込んだ話を聞けたのは良かったですね。結局、一周回ってその話一つひとつが就活にも関わってきたりします。単純に「アートディレクター」の幅も7年前と随分変わって広がった印象があります。ジャンルの違う色々な人に話が聞けたのはすごく良かったですね。学生の方々も幅広く参考になりそう。

特に時代の変化を感じたのは、Takramの田川さんやデザインシップの広野さんに出ていただいた点。クリエイターでありながらビジネスパーソン。新しい次元でアートを武器にしたクリエイターという感じでした。世の中の潮流も、アート思考がビジネスに入り込んでいく流れになってきているので、その先頭を走っている人の話を聞けたのは新鮮でした。佐藤可士和さんも、前回に比べさらにビジネス領域にアップデートしていましたね。アートディレクターが経営者と対等に話すためには、自分が独立して経営者の気持ちを理解することがコツ、みたいな話があり、興味深かったです。

尾上:TBWA HAKUHODOに所属しながらNEWSという会社を立ち上げられた梅田さんも同じことを言っていました。自分で事業をやっている感覚がないと経営者と対等に話せない。今は事業を立ち上げるコストも下がってきているので、こういった人は増えるだろうと。自身で起業し体験したり学んだりしたことをお互いの業務に活かす、という考えみたいです。一方でブルーパドルの佐藤さんは、副業などがきっかけになってもっと色々なジャンルを越境するクリエイターが増えると、面白いことが起きるはずと話していました。アイデアは違うものがぶつかった時に生まれますし。『クリ活3』がもし今後発刊されるなら、農家や公務員などとの兼業クリエイターが誌面に並んでいるかもしれませんね。

井本:兼業クリエイター、面白いね。確かに別で1冊つくれそう!

大瀧:デジタルクリエイティブ編は転職している方が多く、その話を聞くのは新鮮でした。海外だと転職のペースは今回話を伺った方々の平均では3年から5年ほど。僕みたいに10年も同じ会社にいるのはレアということになりますね。現に、この本の原稿をまとめるタイミングで新しいフィールドに転職された方もいました。長年、R/GAのNY 本社でNikeの「FuelBand」の開発をはじめとする多くのプロジェクトでクリエイティブテクノロジストとして活躍されてきた富永さんです。学生時代、ファッションとイラストの勉強をしていて、海外でジョブチェンジが当たり前な世界で働いていたら、いつの間にかデザインもできるし、コーディングもできるようになって…今では色々と任されるようになったと。ソフトウェア開発の世界で用いられる「アジャイル(状況の変化に応じながらも俊敏な対応)」という言葉で話されていましたが、まさにアジャイルにキャリアアップをされていました。

尾上:広告業界は、応用が利く業界だという話は僕も聞きました。入社して最初に、とにかく様々なクライアントや仕事を担当するじゃないですか。あれもやってこれもやってと。普通だと一つのことを突き詰めていくもの。だから、そこで身についたものはその後どこに行っても役に立つ。就活時に何をやるか悩んだら、まずは広告業界でいいなんて話も。明確にやりたいことがないんだったら、ファーストキャリアとして適していると思います。

井本:飽きないですよね。僕はもう13年、新卒から電通だけど、一つの会社にいる感じがしない。広告業界の人たちも、自分からやりたいことを発信していく人が増えてきた気がします。

そんな中で、全く違う業界にいる芸人のロバート秋山さんから話を聞いたのは面白かったです。まさに自分でゼロからアイデアを出す人。そういう人の話を聞いて、能動的なモノづくりのマインドを持つきっかけになればいいなと。あの人ほどのアイデアマンって、本当になかなかいないと思うし、クリエイターとして輝いている。ロバート秋山さんの話は独特で、ネタのつくり方が面白かった。小さい頃から「変な遊び」を考えることが好きらしいです。そういう「遊びのストック」を、まずとにかく集める。それを番組の特性に合わせて3分に収めたり、コントにしたり、遊びのまま出したり。みんな、お題を出されて、「さ、考えなくちゃ」となるけど、それだと自分のやりたいことができない。まずは自分の好きなことを貯めることが大切だと話してくれました。

『デジタルクリエイティブ編』編集長 大瀧篤さん

大瀧:デジタルクリエイティブ編にも通じますね。自分でつくることが好きな人がいっぱいいて、普段、自主制作やチーム内でのアイデアの種づくりをしていて、何かお題が来たら、それを仕事に取り込むぞ!という人が多かったです。3人ほど例を挙げます。まず、BIRDMAN のCTO であるコバヤシタケルさんは「今、最も興味があるテクノロジーを持っておく」ことで、お題が来た時にパッと提案できるし実ることが多いと。さらに好きなことなので、より前のめりに仕事に取り組むことができると話してくれました。

電通の保持さんは、Honda Internavi のチームで「こういうデータを使った表現があるよ」といった情報をメンバーの職域を超えてシェアし合いながら、みんな違う角度から考えを持ち寄って貯めておいた。そして、チャンスが来て、「Sound ofHonda / Ayrton Senna 1989」で実ったそうです。WOW の森田さんも近い話をしていましたね。エンジニアチームを中心にSlackで使いたい技術や機器の情報をシェアし合っている。表現に使えそうなネタをみんなで出し合う。そして、それをクライアントワークやオリジナルワークに利用してしまう。共通して、佐藤雅彦さん(編注:元電通のクリエイティブディレクター。現在は東京藝術大学で教鞭をとる)とユーフラテスチーム(編注:慶應義塾大学佐藤雅彦研究室の卒業生からなるクリエイティブグループ)が大事にしているという、「表現以前」を貯めていくという話に通じるなと思いました。今は表現をしていない学生でも、仮説をストックし、試したいと思う研究気質な人は、この仕事に向いているかもしれません。

尾上:自分も面白いネタを見つけた時は共有したいタイプです。あの人だったらどんな反応をするかな?というのをうかがいたいからです。チームでも視座を揃えるために、仕事に関係するニュースをよく共有しています。

井本:みんなで情報を共有して高め合う。そういうことをどのチームでもできたらいいですね。

尾上:ポルトガルに美食の街として有名なサンセバスチャンという街があって。街中は星付きのレストランばかりなのです。理由はレシピを共有し合って、みんなで高め合って良い品を出しているからだそうです。まさにそういうチームができるといいですよね。

大瀧:デジタルの世界にも、ソースコードを公開して「自由に使ってね」というオープンソース文化があります。コラボレーションを促す土壌ができているのはすてきなところだなと。そういったプラットフォームや思想を広告業界にもインストールしていけたらいいなと思いますね。

『プランニング・コピーライティング編』編集長 尾上永晃さん

デザイン・コード・アイデア手段を問わずに、ゴールを示せる素養が必要

尾上:今後はデザインができて、プログラミングもでき、さらには、企画も考えられる。そんなハイブリッド人材が増えていくはずです。そんな人がアートにもデジタルにもプランニングにも進みたいけど迷っているとしたら、何を決め手に進む道を選べばいいのでしょうか?

大瀧:そういう人、これから増えそう。どんな領域でもハマる人。実際に、最近の若手社員もそういった人材が増えている印象があります。

井本:ハイブリッド人材は今後絶対的に需要がありそうですね。Takramの田川さんもそういう人がほしいと言っていました。ハイブリッドな人がどういう道に進むべきなのかは、結局その人が何を軸にしたいか、によると思います。肩書きをどうしたいか、みたいな。どうであれ、どこに入っても需要はあると思う。ポジションが2個以上ある人。

大瀧:「越境」ですね。軸となる領域を持ちつつ、別の領域へ広げていく。デジタルクリエイティブ編では、会社の仕事と自分の制作活動を並行してやりたいという人もいました。例えば、アーティスト活動をしながら働きたいから、この業界が良いと思って入ったという人も。若手の方々は特に、外での活動が回り回って本職でのクオリティーアップや他の人材との差別化につながっていると感じている人が多かったように思います。私自身も、「世界ゆるスポーツ協会」でのスポーツ制作が広告仕事にも活きているので、実感できました。

尾上:プランナーは個人で、制作活動している人は少なかったですね。仕事の幅がどんどん広がって、満足できているのかもしれない。プランナーはどこででも活躍できるジョーカーみたいなものだから。

コピーライターの方々にも取材しました。コピーライターといっても、いわゆるコピーのみではなく、言葉を軸に、方向をまとめ、運動をつくっていく、企業のど真ん中の課題を解決する人。コピーライターで今トップクリエイターになっている人は、みんなその技能を持っているように思えます。年齢を重ねるとピーライターはやれることが増えるのだなと希望が湧きました。

大瀧:課題やプロセスが複雑になってきた昨今、「あそこに向かうぞ」と示せる人が以前にも増して求められていますね。

尾上:あ、それ秋元康さんも言っていた。クリエイティブディレクターに必要な能力とは、全員が森に放り出された時に、「あっちだ」と自信を持って進んで行くこと。合っているかどうかではなく。自信がなくても歩く。間違っていたらその都度変える。そのほうが、結局出口を見つけるのが早いという話です。その道標となるのが、アート・デザインなのか、コード・テクノロジーなのか、言葉・企画なのか、そこで分かれるのだと思います。

井本:そういう意味ではアートディレクター出身のクリエイティブディレクターってまだまだ少ないんですよね。でも本当は尾上さんが言ったようにアート指標でクリエイティブディレクションはできるはず。佐藤可士和さんが最大の成功事例ですが。

onehappyの小杉さんも、ワンビジュアルでチームをグイッと引っ張れる人。クリエイティブディレクターとしての仕事もこれからどんどん増えそうに感じました。仕事の進め方も興味深くて、とにかくロゴやビジュアルをスピーディーにつくってチームに速攻で共有して、ビジュアルで会話する。その度にこまめにクライアントともやりとりして、クライアントを巻き込んで一緒にモノづくりする。そんな変則的な進め方みたいで。まあ小杉さんからしてみれば、これは数ある進め方の一例だとは思いますが。とはいえ、そのやり方はクライアントの意見も都度聞けるし、迷子にならない。そしてより一層強固なチームになれる。小杉さんはコミュニケーション能力が超高いけど、そうではないアートディレクターも、ビジュアルで会話してクリエイティブディレクションしていく、という意味では、色々な人にとって参考になる気がしました。

大瀧:デジタルもそれに近いですね。プロトタイプをつくってしまって、さわり心地とか使い勝手とか、みんなで一緒に体験して、お互いにワイワイ言い合って高めていく。そして、それを制作チームだけでなくてクライアントも一緒になることでワンチームなモノづくりに発展させることが最大のポイントです。フラットに、全員仲間という感じが重要です。

井本:そういえば、デジタル畑の後輩Eが、試行錯誤こそが一番大事で、アイデアを出した人が一番偉いみたいな広告業界の文化はクソだって言っていた話がすごく好きで(笑)。一番時間のかかっているデザイン定着やプロトタイプ開発をしている人と、最初に企画した人が並列に評価されるような流れにしたいと。その話を聞いた時に、なんかすごくいいなと思いましたね。

大瀧:それはありますね。デジタルクリエイティブの特徴って、実装までにアイデアも技術もみんなで乗せまくっているから、最終的にはいい意味で誰のアイデアかわからなかったりします(笑)。チーム全員がそれぞれオンリーワンな武器を持って戦っているので、誰が偉いとかではなく、リスペクトし合っている文化だなと。メインボーカルがいるバンドというより、みんなで即興を楽しむジャズのセッションというイメージに近いかもしれないですね。

井本:チームで一つのことをつくり上げるっていいな、と思う。それが僕らの仕事の最高の喜びなのかもしれないですね。

尾上:実際こんな感じで話をしていて、アイデアって出てきたりしますしね。それがこの業界の醍醐味。この考え方、この仕事の仕方がもっと広まるといいですね。そして『クリ活』を通して、普通では絶対出会わない経歴(各々の経歴はそれぞれのクリ活をチェック!)の面々が出会って、チームで何かを目指す。そんなことが起きると面白いですね。


書籍詳細はこちら>https://www.massnavi.com/information/2015554.html

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