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レポート

OB・OGを迎え、業界のリアルを知る。出版業界研究セミナー〈イベントレポート〉

マスナビ編集部

OB・OGを迎え、業界のリアルを知る。出版業界研究セミナー〈イベントレポート〉

11月26日、上智大学にて、出版業界研究セミナーが開催されました。ゲスト講師は、ストレートエッジ 代表取締役 三木一馬さんと、講談社 with編集部 梶川由佳さん。上智大学のOB・OGであり、編集者として活躍するお二人に、出版業界の魅力や仕事内容についてお話いただきました。

オンライン配信形式で開催された同イベントの模様や、ゲスト講師と参加学生による質疑応答の内容をお届けします。

株式会社ストレートエッジ

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──はじめに、ストレートエッジ代表取締役の三木一馬さんに、ライトノベルの魅力や出版業界のトレンドについてお話いただきました。三木さんはメディアワークス(現 KADOKAWA)入社後、電撃文庫の編集長を経て、ストレートエッジを設立。『灼眼のシャナ』『ソードアート・オンライン』『魔法科高校の劣等生』など、数々の話題作を手掛けています。長年に渡って業界を見つめてきた三木さんならではの、示唆に富んだ講義となりました。

ラノベ(ライトノベル)とは?
三木:ラノベとは、若者向けのイラストレーション付き小説のこと。市場規模は文庫と単行本合わせて年間約270億円。KADOKAWAを筆頭に主要レーベル数は20ほどで、少年向け・少女向け・大人向け・ネット小説の書籍化レーベルなどに細分化されます。

刊行されるラノベの点数は、月間約200作品。近年では、小説投稿サイトにて人気を集めたWeb小説が書籍化される「ネット発の小説」が、市場の新たなトレンドとなっています。

ラノベとメディアミックス
三木:ラノベの大きな特徴は、コンテンツの派生がしやすいこと。あらゆる創作物の根幹であり、一番はじめのクリエイティブとなる“文字”。その文字のみで構成されるラノベ作品は、人気を得ることで他メディアからのオファーが舞い込み、漫画、アニメ、グッズ、ゲームなど、より市場規模の大きな媒体へ展開することが可能です。加えて、熱狂的なファンを獲得しやすい「オタク」的な商品でもあることから、グッズなどが販売されることで消費が喚起され、作品のさらなる収益性も見込まれます。

一方で、年間約1600億円を誇る漫画と比べて、ラノベは小規模な市場です。単体での影響力は少ないため、メディアミックスを活用し、多チャンネルで利益を得ることが求められます。派生のしやすさはコンテンツの強みであると共に、ラノベにおけるメディアミックスは必須条件にもなっています。

IP(intellectual property)を扱う編集者のこれから
三木:「IP」とは、日本語で「知的財産」。発明やデザイン、著作物など、創造的活動により生み出されたものを表します。

これからの出版業界で働く編集者には、このIPをいかに運用できるかが求められています。特定の媒体に固執していては、業界のなかで生き残ることは難しい。媒体をあくまで表現手段として捉え、「物語をつくる」姿勢が重要です。あらゆる媒体を誰よりも把握し、コンテンツの展開図を描くと共に、知識やトレンドを作家やクリエイターに説明・提案し、創作活動を後押しする。それこそが、今後に出版業界で活躍できる編集者と言えるでしょう。

──イベント当日に寄せられた質問をいくつかご紹介していきます。

学生:大学時代に経験し、現職に活かされていることはありますか?
三木:理工学部だったこともあり、大学での経験はまったく活かされていません(笑)。つまりそれは、自分がいま学んでいることを気にしなくて良いということでもあります。学生時代のスキルは関係ない。まずは気になる企業にエントリーしてほしいですね。

学生:良い作品を生み出すため、どのようなことを心がけているのでしょうか?
三木:作品の世界観をつくりあげるのは、あくまで作家です。編集者から斬新なアイデアを提案することはありません。重要なのは、聞き役になってあげること。作家が考えていることを声に出してもらうことで、自然と脳内が整理され、新たなアイデアに結びつくことがあります。あらゆる言葉を聞き出し、作家のモヤモヤを解消してあげることが大切なのです。

学生:今後、出版業界はどうなっていくと思いますか?
三木:近年は電子書籍など、新たなフォーマットの需要も伸びてきています。紙という人類最古のメディアに固執するのではなく、時代の変化に合わせて媒体もシフトする必要があると考えています。メディアミックスという視点でいうと、YouTube上で漫画が連載されるなど、新たなコンテンツのあり方・マネタイズの方法も増えてきました。時代の変化を捉えながら、IPを軸とした創意工夫がより求められると思います。

株式会社講談社

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──続いて、講談社with編集部の梶川由佳さんです。マンションディベロッパーを退職後、憧れていた雑誌編集の道を求め出版社へ入社した梶川さん。他社の契約社員としてnicola編集部で働いたのち、中途採用で講談社へ。ViVi編集部を経て、現在はライフスタイル誌「with」の編集業務に従事しています。そんな梶川さんに、雑誌編集部の働き方についてお話いただきました。

雑誌『with』について
梶川:1981年に創刊され、2021年には創刊40周年を迎える、働く女性向けライフスタイル誌です。これまで20代をメインターゲットにファッション関連の情報を多く掲載していましたが、創刊40周年を見据えて原点回帰。読者層を広げつつ、ライフスタイル提案へとシフトしています。賢く自分らしい生き方を選び取る羅針盤となり、女性の背中を押す媒体になるべく、さまざまな情報を掲載している雑誌です。

誌面ができるまでの流れ
梶川:雑誌ができるまでの流れを説明します。下記のように5つのステップで編集者は仕事をしていきます。

① 企画立案
毎月2回のプラン会議を実施し、1回目では編集部内で特集案や細かい企画をプレゼンします。大特集が決まると2回目の会議で詳細を洗い出し、メンバーで話し合いながらラインナップと担当割りを決定します。

② コンテ作成
絵を書いて誌面上の見せ方やページ内容、モデルやスタイリスト、カメラマンなどのキャスティングを決めて、撮影スケジュールを調整していきます。

③ 撮影
コンテをもとに、誌面に載せる写真を撮影します。編集者はスタジオのセッティングやスタイリストへの細かな指示、食事の手配など、あらゆる業務を行います。

④ 写真セレクト・構成・デザイン入れ
撮影された写真をもとに細かい構成を決め、誌面をレイアウトするデザイナーに依頼します。

⑤ 入稿、校了
デザインを確認し、原稿と合わせて印刷会社へ入稿。上がってきたものに間違いがないかをチャックして校了となります。

誌面制作以外の仕事
梶川:出版業界が徐々に規模縮小を続けるなか、『with』の販売部数も減少しつつあるのが現状です。with編集部ではこうした状況を打破すべく、新たなアプローチに挑んでいます。

例えば、雑誌を知ってもらうきっかけのためにSNS投稿は当たり前で、さらに近年はYouTube動画も編集者自らが動画編集を行うこともあります。他には、読者組織「withLabメンバーズ」のコミュニティマネジメントも。読者像の拡大に伴い、読者組織with girlsのメンバーも「女の子」から、女性の幸せを追求する「ラボの一員」へシフト。加入者はアンケートやサンプリングに協力しながら、編集部に近い立場で展示会や内覧会の情報を発信する「withLabエディター」、オーディションで選抜されることで誌面にも登場できる「withLabスター100」など、雑誌を盛り上げる企画に参加できます。

雑誌を生き残らせるためにできること
梶川:苦境に立っている雑誌が生き残り続けるため、編集者に求められるのは「売り方」を考えること。雑誌はつくって終わりではなく、人に届けることではじめて思いを届けることができます。「人を動かすこと」をゴールに見据えながら、土台となるコンテンツをつくりあげ、紙やWebなど、媒体にとらわれずに売る方法を考える必要があるのです。

──イベント当日に寄せられた質問をいくつかご紹介していきます。

学生:
大学時代に経験しておくべきことはありますか?
梶川:学生時代からインターンや学生ライターなど、出版業界と関われる機会は無数にあります。編集者としてのスタートダッシュを成功させる意味では、早めに経験を積んでおくことはおすすめです。ただし、ほかにやりたいことがあるなら、そこに全力を注いでください。私も大学時代はチアリーディング部に所属し、出版業界に関する経験はありませんでした。だからといって、チアリーディングを続けていたことに後悔はありません。「やっておけば良かった」と思い残すことがないよう、学生としての時間を大切に過ごして欲しいです。ただし、筆記試験の勉強をしておいた方がいいですよ(笑)。

学生:編集者に有利なスキルはありますか?
梶川:時代に合わせて、求められるスキルは変化していると感じます。紙の雑誌が売れていた時代とは異なり、いまはWebやカメラ、編集ソフトなど「個人ですぐに情報を加工・供給できるスキル」が重宝されることも多いのです。これらのスキルはSNSや動画メディアに多く触れている若い世代の強みでもあると思うので、身近にあるツールに積極的に触れてみてほしいと思います。

学生:今後、出版業界はどうなっていくの?
梶川:時代に最適化されたプラットフォームが生まれることで、出版業界は大きく変化していくと考えています。なかでも雑誌は膨大な取材とコストを掛けて成り立つ、信頼性の高い媒体です。ネット記事の多くも、未だに新聞や雑誌の情報が土台となっています。この信頼性を如何に活用するかが、雑誌の生き残りを左右するカギになると思います。