RESEARCH業界・職種を学ぶ 就活・自分を知る
レポート
小学館と講談社のOB・OGが語る、出版業界のリアル。業界研究セミナー〈イベントレポート〉
マスナビ編集部

2021年11月、上智大学にて出版業界セミナーが開催されました。ゲスト講師は小学館 図鑑編集部の大藪百合さんと講談社 モーニング編集チームの松比良建太さん。上智大学のOB・OGであり、編集者として活躍するお二人に、出版業界の魅力や仕事内容についてお話しいただきました。長い年月をかけて制作する図鑑と週刊で忙しなく進行する漫画週刊誌。対象的なお二人ですが、以外な共通点も見つかるなど、編集のお仕事について深く知る機会となりました。
オンライン配信形式で開催された同イベントの模様や、ゲスト講師と参加学生による質疑応答の内容をお届けします。
小学館
講談社
──つづいて講談社 第四事業局モーニング・イブニング・コミックデイズ編集部モーニング編集チーム 松比良建太さんに登壇いただきました。元々は小説の編集志望でしたが、配属先はなんと漫画週刊誌の編集部。漫画編集者ならではの仕事の進め方や面白さが感じられる話でした。
就職活動からこれまでのお仕事は?
学生時代は映画が好きで、映画をたくさん見て、映画製作関するアルバイトも行っていました。就職活動の時には、物語の0→1が生まれる場所が出版社なのでは、と考えて出版社を受けていました。そのなかで講談社に内定して、いまに至ります。
当初は小説の編集を希望していましたが、配属先は漫画週刊誌の編集部。一週間に1冊の雑誌をつくるというスピードに圧倒され、最初のうちは仕事をこなすのが精一杯。大御所の漫画家を担当し、編集者としてのイロハを教えてもらっています。
編集者の仕事とは
松比良:漫画週刊誌の編集には「雑誌業務」と「作品業務」があります。雑誌の表紙や次号予告、プレゼントページなどを企画するのが雑誌業務に該当します。例えば表紙を制作する場合、漫画家には「こういったイラストを描いてほしい」と依頼し、デザイナーにはイラストをベースに「こういった表紙をデザインしてほしい」と依頼を行います。
作品業務は担当作品を持ち、漫画作品の制作サポートや単行本の発刊などを行います。作品業務にはメイン担当とサブ担当がいて、メイン担当が先輩で、サブ担当が若手です。一人で連載を立ち上げることができれば、メイン担当となり、ようやく漫画編集者としては初級編クリアです。作品の担当をしていて驚いたのは、漫画のキャラクターが実在の人物のように取り扱われることです。『相談役 島耕作』を担当した時の話です。原稿を取りに行き、内容を確認していると、最後のページで主人公である島耕作が新型コロナウイルスに感染し、ベッドで寝ている描写がありました。これを見た先輩が、急いで社内に緊急連絡を入れて、企業タイアップに影響が出ないか確認を取っていました。また、週刊誌から電話がかかったりと、まるで芸能マネージャーのようでしたね(笑)。
漫画編集者の仕事を一言で表すならば『「面白い」に囚われる日々。』だと思います。なにが面白いのか、そしてなぜそれが面白いのか、をひたすら考え、言葉にして漫画作家さんと話し合っています。いま学生の皆さんが臨んでいる就活も近いかもしれません。就活を振り返ると『「自分」に囚われる日々。』だったと思います。どうやったら自分に興味を持ってもらえるのか、自分の興味を持ってもらえるポイントはなにか、ひたすらに考えていました。そう思うと就職活動での経験が、編集の仕事に生きてくるかもしれませんね。
質疑応答
──ここからはイベント当日に学生さんから寄せられたご質問をいくつかご紹介していきます。
学生:一番面白かった仕事はなんですか?
大藪:この仕事をしていなかったらやる機会がなかったな、というのは化石発掘です。福井県にある発掘現場に行き、炎天下のなかで調査員の方と一緒に化石発掘をしました。また小学館の先輩方がつくった恐竜の図鑑を読んで、古生物学者を志した人に出会ったのも思い出深いです。自分のやっていることが未来につながっていると感じるきっかけでもありました。
学生:一番大変だった仕事はなんですか?
松比良:戦時中の海軍を題材としたテーマの漫画作品を担当したときの話です。漫画家から、とある軍艦の設計図がほしいと相談を受けました。戦艦「大和」のように有名な船ではなかったので、とにかく探すのに苦労をしました。自衛隊から防衛省、研究者にまで連絡しましたが、見当たらず。どうしようかと頭を悩ませました。最終的に、国会図書館に行き、GHQが接収したフィルムを一枚一枚確認して、見つけることができました。
学生:就職活動の時に話していたエピソードがあれば教えてください
松比良:実は、就職活動をしている時に家がありませんでした。バックパックに全財産を詰め込んで就職活動をしていたのです。もしかしたらホームレスになるかもしれない、という状況でしたが、面接官にはそのことも面白く伝えていましね。物語が生まれる、エンタメが生まれる会社なので、面接でも面白くなるように気をつけていました。
学生:編集者はどんな人が向いていると思いますか?
大藪:なんでも面白がれる人だと思います。私はもともと宇宙の図鑑がつくりたいと思っていたのですが、最初に言い渡されたのは恐竜の図鑑の担当でした。でもこういうときに、「え、恐竜ですか…」となってしまうとつまらなくなってしまいます。新しいことでも面白いと思える人が向いているように思います。また図鑑制作は本当に多くの人と関わる仕事です。それも楽しめることが大事です。
松比良:逆に私は一人の作家と向き合う日々です。編集部を見回すと、本当にいろいろなタイプがいます。編集者はそれぞれの強みを活かすことができる仕事だと思うので、一概にこれだというものを挙げるのが難しいかもしれません。私の場合、年齢が上の漫画家を担当することが多いので、忖度せず、面白い・面白くない、というのを正直に伝えるようにしています。感じたことをまっすぐ伝えたほうが、漫画家から信頼されるというのは感じています。
学生:コンテンツや作品に触れる際に、面白い、を見つけるために心がけていることはありますか?
松比良:大量にコンテンツに触れることは必要です。そして、面白いと思ったら「なぜ自分が面白いと思ったのか」を言語化するのが大事。友人と飲んでいるときでも「なぜ彼の話は面白いのか」「なぜ自分の話はウケないのか」などを考えていますね(笑)。
学生:これから出版社はどのようになっていくと思いますか?
大藪:出版社といってもさまざまな仕事があって、紙の本だけを作る会社ではありません。出版社の核にあるのは、読者を楽しませるコンテンツづくりだと思っています。「面白いものをつくる」ことが絶対に譲れない部分。アイデアをどのようにカタチにして、アウトプットしていくのか、読者に楽しんでもらうのか。これを考えるのが編集の仕事です。アウトプットの方法はさまざまなので、ぜひこれから入社する若い人のアイデアや経験を取り入れていきたいですね。
──はじめに小学館 図鑑編集部の大藪百合さんから自己紹介いただきました。図鑑の編集者を志して小学館に入社し、営業職を経て現在は編集者として活躍をされています。見えてきたのは紙の図鑑づくりだけではない、編集者としての仕事の幅の広さでした。
就職活動からこれまでのお仕事は?
大藪:就職活動時には、「人を幸せにする仕事がしたい」「社会をより良くすることに一生をかけて取り組みたい」と考えていました。では自分に影響を与えたものはなんだろうと振り返ったときに、「本」の存在が大きいことに気がつきました。自分もそういった本をつくりたいと思い、出版社を志望。なかでも「図鑑」をつくりたい、特に宇宙の図鑑をつくりたいと思っていましたね。
編集部希望でしたが、配属されたのは営業部署マーケティング局宣伝グループ。会社の方針で同期のほとんどが営業配属となり、私は児童雑誌や児童書の宣伝を担当していました。3年目に念願の図鑑編集部への異動がかないます。それから恐竜や宇宙の図鑑などを手掛けます。
最初に担当したのは恐竜の図鑑。まったく知識のないところからのスタートでした。とにかく資料を集め、調べ、学会などに足を運び、研究者の方の話などを聞く勉強の日々。2年間かけてようやく一冊の図鑑をつくり上げることができました。
編集者の仕事とは
大藪:一冊の図鑑が出来上がるのに100人以上が関わっています。監修を担当する古生物の専門家や博物館の関係者、復元画を描く復元画家、標本の写真を撮影するカメラマン、挿絵を描くイラストレーター、編集を一緒に行う編集プロダクション、レイアウトのデザインをするデザイナーなどさまざまです。それら関係者の船頭役が編集者。ページのラフを描いたり、掲載するイラストをイラストレーターにお願いしたり、そのイラストが学術的に正しいか、監修の先生に確認を取るなど、図鑑制作における司令塔となり、あらゆる関係箇所とコミュニケーションをとります。図鑑制作は2~3年、長いと5~10年かかるケースもあり、一緒に図鑑を制作してくれるメンバーが途中で脱落しないように引っ張っていかなくてはいけません。
また編集者の仕事は編集だけではありません。書籍を買ってもらうためのPRのアイデアを考えることも業務の一つです。企業とのコラボや映画製作の監修をすることもあります。『映画ドラえもん のび太の新恐竜』では監修協力として参加し、映画に登場する恐竜の表現について、専門家の方に相談することもありました。出版社に入って映画製作に携わることになるとは思いもしませんでした。