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レポート

最終面接で揺れる心。内定後も羨む心 ─ 就活を成功させるための心理テクニック 第19回

橋本之克さん

最終面接で揺れる心。内定後も羨む心 ─ 就活を成功させるための心理テクニック 第19回

近年大注目の「行動経済学」。不合理な生き物である人間を、心理学と経済学を用いて分析する考え方で、マーケターが消費者インサイト(消費者自身が気づいていない本音や動機)を捉える際にも参考にするメソッドです。就職活動も人の不合理な判断が少なからず起きてしまいます。判断を誤らないように、行動経済学を用いて就活対策をするならば──。

第19回は、内定前後の心の葛藤について。やっとたどり着いた最終面接で落ちてしまい自暴自棄になってしまう心や、すべり止め企業の内定をもらってもうおしまいにしたいと揺れる心。はたまた内定後も他の求人が気になり、就活をだらだらと続けてしまう心理についてです。目の前の就活だけでなく、将来の仕事から実生活にも役に立つ、就活を成功させるための心理テクニックをお伝えしていきます。(マスナビ編集部)

負け続けた・勝ち越したときのアンビバレントな心理

刑事ドラマで、逃げ場を失った犯人が人質を盾に立て籠もるシーンを見たことはありますか? 警官隊に取り囲まれ、絶体絶命の犯人が簡単に自首しないのは、「最終レース効果」という心理的バイアスが働いているためです。これは、損をし続けた最終局面で、実際には低い成功率を高く見込んで一発逆転の勝負に出る心理です。競馬などで賭け続けた末の最終レースで負けが込んでいると、損を帳消しにできると、ハイリスクな賭けにお金をつぎ込んでしまうことから、名付けられました。一方で人は勝ち越していたならば冷静な判断ができるかというとそうではありません。逆に必要以上にリスクの低い選択をします。

つまり人間は損している状態では、危険をかえりみずリスクの高い行動をして、得している状態ならば過剰に安全を求めるわけです。どちらの状況でもバイアスのかかった選択をしてしまいます。現状の損得で次の行動が正反対になるため、行動経済学ではこれを「反転効果」と呼んでいます。

ほかの損得に関する心理で、人間は損した状態から損得ゼロまで戻そうと強く求める傾向があります。これは「ブレークイーブン効果」と呼ばれています。例として、値下がりしてしまった株を持ち続けた後、相場の回復により買い値で売却する「やれやれ売り」があります。損がなくなってほっとした気持ちが「やれやれ」という言葉に表れていますが、これも「ブレークイーブン効果」です。また、親友と大けんかした後に仲直りしたら、さらに仲良くなったという経験はありませんか? 大事な友人を失いそうな危機の後では、元に戻っただけでも、「ブレークイーブン効果」によって喜びは大きくなります。

これらの心理的バイアスを知っておけば就活にも役立ちます。例えば……


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隣の芝が青く見えてしまう理由

役員面接や最終面接に進んで、期待値が高まった後で落ちてしまうとショックはさらに大きくなります。自暴自棄になってしまうかもしれません。そこで覚えておくべき行動経済学の法則は「参照点依存性」です。これは人が、ある基準(参照点)に引きずられて、「参照点」からの距離で物事を評価・判断する傾向のことです。

例えば、あなたの2年目の年収は400万円ですと言われたとき、前年が300万円だった場合は喜び、500万円だった場合は悲しむでしょう。ここでは前年の年収が、今年の年収を評価する際の「参照点」です。人は絶対的な判断軸を常に持っているわけではなく環境や状態に応じて物事を相対的に評価するのです。

先ほどのように、面接の最終段階で不合格となった後は特に「参照点依存性」に注意してください。他の企業を受け直すと、一次面接からスタートしなければなりません。かつての自分が最終面接まで残っていたことを記憶し、それが「参照点」になると、意欲を保てない可能性があります。特に好待遇だったはずの会社に落ちて、条件が良くない企業を受けるならば、なおさらモチベーションが上がらないことでしょう。

このバイアスは、他人との比較においても影響を及ぼします。自分が入社する会社の初任給が400万円だったとき、友人の会社は500万円だと聞いていたら、いい気分はしないかもしれません。このような他人の状況も「参照点」となります。“隣の芝生は青い”と言われるように他人を羨んでも仕方ないのですが、無意識に比較してしまうものです。


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第1回「ゼミやサークルを優先して、就活を後回しにしてしまうのはなぜ?」を読む
第18回「内定はゴールではない。次なるゴールへのスタート地点」を読む
第20回「最後にどうしても迷ったときに心の声を聞くためのおまじない」を読む

著者プロフィール

マーケティング&ブランディングディレクター/昭和女子大学 現代ビジネス研究所 研究員 橋本之克さん
東京工業大学社会工学科卒業後、読売広告社、日本総合研究所を経て、1998年アサツー ディ・ケイ入社。戦略プランナーとして金融・不動産・環境エネルギー等の多様な業界のクライアント向けに顧客獲得業務を実施。2019年独立。現在は、行動経済学をビジネスに活用する企業向けのコンサルティングや研修講師を行う。また企業や商品に関するブランディング戦略の構築と実施にも携わる。著書に『9割の買い物は不要である 行動経済学でわかる「得する人・損する人」』(秀和システム)、『世界最前線の研究でわかる! スゴい! 行動経済学』(総合法令)ほか。