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レポート
“好き”が伝わるポートフォリオが未来をひらく―若手デザイナー2人が語る、自分らしい就活のカタチ―
マスナビ編集部

2024年3月、マスナビでは「クリ活フェス」にて「若手デザイナーの学生時代のポートフォリオ閲覧会」を開催しました。「ポートフォリオって何から始めればいいんだろう?」と不安を感じている学生に届けたい、2人の若手デザイナーのリアルな就活体験。博報堂とWieden+Kennedy Tokyoで活躍する2人に、自身の作品づくりやポートフォリオの工夫、そして「好き」をどう仕事に結びつけたかを語っていただきました。本レポートでは当日のイベントのダイジェストをお届けいたします。
美大生は作品づくりを通して自分と向き合っている
どう伝えるかもポートフォリオづくりで意識
—— 作品数はどのくらい入れましたか?
大利:12作品くらいです。多ければいいわけではなくて、クオリティーや世界観に自信のあるものを厳選しました。仕上がっていない1~2年生のときの作品などは省いて、全体の平均点が高くなるように工夫していました。
安田:私はメインで紹介したのは4作品。ボリュームよりも、「自分がどう考えてどうつくったか」が伝わる内容を意識しました。自分が好きなスペースデザインも入れていました。ただスペースデザインは大学の課題ではカンプの制作にとどまることが多く、ポートフォリオで伝えづらい事情があります。Photoshopでつくりこむ限界を意識しつつ表現できるバランスを考えて組み込みました。
——作品の見せ方について工夫があれば教えてください。
大利:インスタレーションや空間デザインなど、どう見せるのか、が焦点になると思います。僕の場合は、指紋センサーを使った装置など、搬入が難しい作品は簡易版を自作して持参しました。広告の仕事は「どう伝えるか」も大切です。限られたレギュレーションの中で、その作品のコアな部分をどうアピールしていくかという姿勢も評価されると思います。
安田:「UX用」と「ビジュアル用」にポートフォリオを分けてつくり、それぞれに合った構成や見せ方を心がけました。例えば、UXデザインのポートフォリオでは、課題→発見→解決という流れを論理立てて説明することを意識していました。
——最後に、就活生にメッセージをお願いします。
安田:不安は一人で抱え込まず、誰かに話してみてください。私はLinkedInを介して海外のデザイナーにポートフォリオをレビューしてもらったりしていました。誰かに話すことで、自分の方向性も明確に見えてきます。
あとは、もし気になる会社が求人をオープンにしていなかったとしても勇気を持ってドアノックしてみましょう。ポートフォリオと経歴書を添付して「インターンシップでいいのでお願いします」とメールを送ったら、ラッキーなことに受け入れてくれて、早々に大きなプロジェクトに参加して、入社に至るなんてケースもあります。
大利:就活は「自分に合う会社を見つけるため」のもの。無理に合わせる必要はありません。自分の“好き”を貫いて、その良さをちゃんと伝えられれば、必ず合う会社と出会えます。「ありのままの自分を受け入れてくれる会社を選んでみよう」という気持ちで気楽に臨んでみてください。
自分の“好き”を信じてカタチにしてみる。それが、あなたらしい未来につながる第一歩になるかもしれません。就職活動でのポートフォリオ制作に悩んだときに、ぜひ参考にしてみてください。
登壇者プロフィール
博報堂 アートディレクター/デザイナー 大利光輝さん
1998年、広島生まれ。2020年、武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。同年博報堂入社。H/design配属の後、現在はhakuhodoDXDに所属。主な受賞歴に、朝日広告賞、準朝日広告賞、電通広告賞など。
Wieden+Kennedy Tokyo デザイナー 安田茜さん
1998年東京生まれ、韓国育ち。2020年カルフォルニア州のCalArtsグラフィックデザイン学科卒業。卒業後、Wieden and Kennedy 東京で3カ月間のインターンシップを経て、入社。
——お二人のご経歴について教えてください。
博報堂 大利さん(以下、大利光輝):2020年に武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科を卒業。新卒で博報堂に入社し、永井一史さん率いる博報堂デザインに配属されました。2023年からはhakuhodoDXD(現在はCXクリエイティブ局)に所属しています。アートディレクター/デザイナーとして、広告領域のみならず、CI/VI(Corporate Identity/Visual Identity)やロゴ、ブックデザインまで行っています。
Wieden+Kennedy Tokyo 安田茜さん(以下、安田):2020年カルフォルニア州のCalArtsグラフィックデザイン学科卒業。卒業後に3カ月間のインターンシップを経て、Wieden and Kennedy Tokyoに入社しました。ブランドデザインやエクスペリエンスデザイン、アートディレクションも少し携わっています。
—— ポートフォリオには何を載せればいいですか?
大利:自分が「かっこいい/かわいい/きれい」と思える好きなものを素直につくって、素直に見せる。それでいいと思います。広告っぽいかどうかより、「自分がどんなものにワクワクするのか」が伝わる方が大事です。
例えば、僕の場合は地元広島をテーマにした作品「八月六日、東京」や自分が大好きなビリヤードを映像作品にしたもの。ビリヤードの音や色がシンプルに好きでアニメーションにしました。ほかにはドクタークローゼット(DR.CLOSET)という、骨折した友人からインスピレーションを得て、骨折というネガティブから生まれた、服の新しいポジティブな形を探った衣装を制作して載せました。指紋がレコード盤に見えるという気づきから、指紋をセンサーで読み取って音楽にする装置も開発しました。指紋の作品はポートフォリオ審査会に現物を持っていき、盛り上がりました。
ポートフォリオ審査会以外に試験課題で、在日留学生に向けた施策を考えることがありました。美術予備校時代に留学生と話しているとき感じた、オノマトペは日本特有のカルチャーという気づきを元に制作しました。まずオノマトペが伝わらないと困る状況として病院を思い浮かべました。傷病時に自分の症状が明確にわからないからこそ、お腹がチクチクするとか頭がズキズキするとか、オノマトペが使われたりしますよね。そこで、オノマトペを模した図形を用いた医者と患者のコミュニケーションツールをつくりました。
就活では「自分らしさとは」という難しい問いを考えなければと気が重い人もいるのではないでしょうか。ただ、美大生・クリエイターは作品をつくる時点で自然と「自分ってなんだろう」と考えることが多いはず。だから気を負わずに作品を通して自分を伝えられればいいんです。自分が好きなものが意外と個性になっていると思います。
安田:私も、学校の課題やインターンでの実務経験に限らず、自分の「好き」が表れているプロジェクトを中心に選びました。やりたい仕事の方向性が見えるように意識しました。
そのほかには3つのポイントを意識していました。1つ目は、何系のデザイナーを目指したいのかわからないときはポートフォリオを複数つくること。私自身は、Googleスライドを使用して、「UX」と「ビジュアル」の2ジャンルに分けて制作していました。Googleスライドでリンク化すると、編集や共有が簡単になるのでおすすめです。2つ目は、プロジェクトの説明文はできるだけ短く簡潔にすること。例えば、作品の写真を大きめにして、プロジェクト名や説明を横に添え、シンプルなレイアウトにするなどです。3つ目は、自分の性格と趣味を伝えること。自分のスキルや実制作を紹介するWorkと自分の個人制作を紹介するPlayに分けました。Playには自分が好きで制作しているアルバムカバーやポスターなどを入れていました。デザインで遊んでいる姿、遊び心を見せることも大事です。
ポートフォリオは自分が何を好きか探る機会であると同時に、自分が楽しいと思うことを発表できる場所でもあります。学生生活で興味が湧いたことなどを重視してポートフォリオをつくれば、面接官にも響くはず。自分に自信を持って!