自作ラジオも自作カードゲームも「炎上→終了」の小学生。映画作りやアイドルプロデュースまで手を拡げる、生粋のクラフトマン/博報堂ケトル 畑中翔太さん(後編)

自作ラジオも自作カードゲームも「炎上→終了」の小学生。映画作りやアイドルプロデュースまで手を拡げる、生粋のクラフトマン/博報堂ケトル 畑中翔太さん(後編)

クリエイティビティ溢れる作品で、多数の広告賞を受賞する博報堂ケトル。そのなかでもひときわ存在感を放つクリエイティブディレクター、畑中翔太さん。彼の活動は、「広告」の枠を超え、エンターテインメント領域まで活躍の幅をひろげている。そんな畑中さんは、「幼少期はクラスの二軍リーダー的存在だった」と語ります。生来のクラフトマンが取り組む、コミュニケーションの原点とは?

写真:畑中翔太さん
畑中翔太さん株式会社博報堂ケトル クリエイティブディレクター
2008年博報堂入社。プロモーション局に配属後、2012年より博報堂ケトルに参加。アクティベーション領域を軸に手段とアプローチを選ばないプランニングで、「人を動かす」統合キャンペーンを数多く手掛ける。これまでに国内外の150以上のアワードを受賞。Cannes Lions 2018 Direct部門審査員。2018年クリエイター・オブ・ザ・イヤー メダリスト。
【 目次 】
アイデアを開発する力を発揮したくて
コミュニケーションのプロとして、気づきを与えたい
「探求心」が強い人が広告業界には向いている
仕事選びは、“欲望=エクスタシー”の本質を見て

アイデアを開発する力を発揮したくて

学生時代についてお聞きした前編はこちらから

──入社2年目のカンヌ広告祭授賞式でみた数々の作品を前に「すぐ帰りたくなった」のは、どうしてですか?
カンヌは1週間くらい、毎日授賞式をやっています。受賞者はステージに登壇し表彰され、スポットライトを浴びて写真を撮られる。僕も同じクリエイターなのに、それを見て「すげー」とステージの下から賞賛していてすごくダサいなと(笑)。僕も称賛されるものをつくりたいと思って、早く帰りたくなってしまいました。

カンヌで見る広告は、もはや広告ではない。Webサイトやノベルティ制作といった仕事とレベルが違う。領域を超えて、「こんなことをやっていいんだ」と痛感しました。映画をつくってもいい。商品をつくってもいい。もはやルールがない感じでした。

課題解決をする目的は、カンヌ受賞作品でも、CMでも、僕が若い頃やっていた仕事もすべて変わらない。でも、僕がいたプロモーションの部署は、マーケティングの部署で戦略を決め、CMやCMコピーを考える人がいて、出演タレントが決まって、できあがったものが僕の部署におりてきて、それをWebでどう出していくかを考えます。そのため「課題解決」という視点で捉えていなかった。正直、アイデアを考える力を発揮する機会もなく、箱の開け方がいつも一緒だったような。

その後、CMも含めたあらゆることをつくりたくてケトルに異動し、クリエイティブディレクターになりました。

──ご自身の仕事で最も印象的なプロジェクトは?
ワイモバイルのプロジェクトで制作した「パラレルスクールDAYS」という、ドラマ、小説、アニメーションを制作し、最後に映画化まで実現できた作品に原案段階から企画制作したことです。

昨年、その前の作品として、ワイモバイルでティーンドラマをつくったんです。1カ月間継続してYouTubeで毎日配信するミニドラマと連動し、登場人物が毎日SNSで自分の生活をつぶやくという仕掛けです。それで海外の賞やACCを受賞することができました。

「ドラマをつくる」のは去年の僕にとっても新しいチャレンジでした。全回合計すると2時間ドラマになるので、僕にとっても“エポック”でした。

そして今年、また同じクライアントのプロジェクトで、「今年は映画をつくりたい!」と。配信ドラマを制作し、それがアニメーションになって、小説になって、最後は映画で公開されるところまで実現しました。コミュニケーションを仕事にしている人にしかできないという実感がありましたし、僕ら発信でどこまでやれるか、というチャレンジでした。

──どんな作品だったのですか?
主人公は、現実世界では空気のような存在の女の子で、SNSでだけ本心をつぶやいている。そんな女の子が「SNSの世界に行っちゃいたい」と思ったことが現実になる物語です。同じ教室で現実の世界とSNSの世界が並行して進み、SNSの世界ではフォロワー数によってクラスでのヒエラルキーが変わるという設定。現実世界の一軍がSNSの世界では二軍になったり、逆も起こったり。ドラマとしては新しいものがつくれたと思います。

YouTubeの世界も多少そういう側面があると思います。YouTuberは画面の前では饒舌ですが、対面して喋ると意外と二軍っぽい人もいる。そういう世界観も表現したかったです。

「ソーシャルだと自分を出せるけど、現実だと出せない」、それを逆転させるようなドラマです。去年のものはシンプルな恋愛ドラマでしたが、今年はよりワイモバイルがやる意義のあるブランディッドなドラマに仕上がったと思います。

コミュニケーションのプロとして、気づきを与えたい

──「社会に対して、なんらかの問題提起をしたい」という気概を感じますね。
そういう気持ちは、根っこにあります。例えば、僕が企画した群馬県高崎市の後継者不在問題によって継承が危ぶまれる絶品グルメを紹介する「絶メシ」もそうです。社会の課題解決につながるメッセージを発信したい。

パラレルスクールDAYSも、SNSの世界でヒーローになれた主人公が、やっぱり現実世界に戻ろうと決断して、パラレルワールドから戻ってくる結末。「青春ってSNSにのめり込んで、『いいね』をもらうことだけなのかな? もっと大事なことあるんじゃないの?」というのに気づいてほしくて。説教臭くはしたくない、けれども「ちょっと違うんじゃないの?」という気づきのきっかけを感じてもらえたらと思い、制作しました。

──広告会社の仕事は、畑中さん的にはどんな仕事ですか?
結局、「コミュニケーション」の一言に尽きる。「広告」をやっているわけではなく、「何かを代弁する」、あるいは「100あるコトバを10にする」「100ある景色を10に詰める」といった感覚です。誰かになにかを上手く伝えるためにやっている。それを、僕らは「広告」という分野で価値に換えています。

僕はアイドルグループのブランディングもやっています。「もっとこうしたほうが世の中に響くのではないか」を考えるのも、すべてコミュニケーションです。アドエージェンシーの役割が増えている気がします。コミュニケーションをつくる能力って、どこでも使えると思います。ラジオでも、ドラマでも、商品開発でも。コミュニケーションのプロになるということは、本当に無限の可能性があります。

「探求心」が強い人が広告業界には向いている

―─どんな人が向いていますか?
知りたい欲が強い人、「探求心」が強い人が向いていると思います。そのもの自体が好き・嫌いより、「そのなにかの構造を知ること」が好きかどうかです。

例えば、興味のないシャンプーについても、「なんでこれが売れるんだろう?」「これは500円なのになんであれは1000円するのかな?」
「パッケージをピンクにするだけでこんなに売れるのか!」など、いろいろな視点を持てば、どんどん探求できるポイントが浮かび上がってきます。商品に興味を持っているのではなくて、探求そのものが楽しいのです。

僕は、何件も同時にいろいろなことに首を突っ込める、探求できる、この業界が好きですね。学生には「業界」で選ばず、「やること」で選んだほうがいいと伝えたいですね。

仕事選びは、“欲望=エクスタシー”の本質を見て

──「業界ではなくやること」とはどういうことでしょうか?
OB・OG訪問で学生と会うと、「なにをやりたいか」を無理に決めている印象を受けます。仕事に興味を持ち始めて、なんとなく楽しそうだから、「俺はこれがやりたい!」と決めつけている。でもそれは本質的な話ではありません。

例えば、「CMが好き」な人がいたとして。その根源には「メッセージを伝えたい」や「お母さんに活躍を見せられる仕事がしたい」といった“欲望の本質”があるはず。自分がなにに“本質的なエクスタシー”を感じるのかを、もっと突き詰めたほうがいいです。

僕の場合は、自作のカードやラジオ番組で友人がワチャワチャ言うのが好きでした。それがラジオでもテレビでも新聞でもゲームでも、どんなメディアでもよかった。本質が合っていれば、どこで仕事をしても楽しいはずです。

──これからの野望は?
CMをつくる立場になって、映画をつくることも叶いました。さらにこれからは、長く影響を残せるコンテンツをつくりたいですね。それは広告ではないかもしれません。単純にCMをつくるのではなく、プロデューサーのような存在になりたいのかもしれません。クラフト側にいるより、その上に立ってより面白いことが生み出していきたいなと。クラフトマンが、ほかのクラフトマンを組み合わせてよりビッグエンターテインメントが生まれる。そういうモノづくりが、世の中ゴトになると信じています。

広告は、人を動かせる。今年みんなが話題にして口ずさむ。そういうモノをつくりたくて今、動いています。ドラマやアーティストのブランディング…など、まだ具体的にはお話できませんが。「博報堂だからくる」仕事でなく、「僕だからそこにいる」仕事を増やして、もうちょっとエンターテインメントの真ん中にいきたい。2~3年後に花開いたらいいな。

──楽しみですね! 最後に、座右の名をお聞きしたいです?
営業の先輩が「向き不向きより前向き」といつも言っていて、その言葉がとても好きです。悩んでいてもしょうがない。与えられたら最大限やって次に行こう、です。

──課題解決という得意分野をコアに、「クラフト」や「探求」に没頭できる広告クリエイターは、まさに畑中さんの天職のひとつと言えそうですね。自分の欲求の本質が何なのか。「好きなこと」に“パンク魂”でどんどんチャレンジすると、見えてくるかもしれません。

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