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仕事は9割つらくて、楽しいのは1割。それでもおもしろいから辞められない。TBWA\HAKUHODO/徳野佑樹さん(後編)

仕事は9割つらくて、楽しいのは1割。それでもおもしろいから辞められない。TBWA\HAKUHODO/徳野佑樹さん(後編)

UNIQLOのグローバルキャンペーンや、認知症の方が笑顔で店員を務める「注文をまちがえる料理店」、あきらめない人の車椅子「COGY」、「SUNTORY WHISKY 3D on the Rocks」まで、企画とデザインがマッチしたクリエティブを複数手がけている注目のアートディレクター・徳野佑樹さん。その人間力に迫りました。

写真:TBWA\HAKUHODO
TBWA\HAKUHODO徳野佑樹さん
多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。
2007年博報堂入社。2013年よりTBWA\HAKUHODOに所属。
ポスター、VI、パッケージ、CMなど多くのデザイン領域を手がける。
東京ADC賞、カンヌライオンズデザイン部門ゴールド、NYADCゴールド、CLIOゴールド、クリエイターオブザイヤー2018メダリスト、ACCイノベーション部門グランプリなど受賞多数。
【 目次 】
「COGY」と「注文を間違える料理店」。
「いい人クリエイター」だけの人にはなりたくない。
デザインが持つ飛距離と、デザイナーに求められるナナメでものを見る感覚。
デザインの仕事は、9割が辛くて、楽しいのは1割くらい。
デザイナーに求められるのは人間力。センスはあとから身につけられる。

「COGY」と「注文を間違える料理店」。

ーこれまで携わった仕事の中で印象的なものを教えてください。

これまで手がけた中で特に印象に残っている仕事に、あきらめない人の車いす「COGY」と、「注文をまちがえる料理店」があります。ともにカンヌライオンズなどで賞をいただきました。

車いすは、プロファンドという名の既存製品のリブランドが課題でした。
実は、足の不自由な方でも、ペダルを漕いで進むことができるという画期的な車いすなのに、その良さがきちんと伝わっていないと感じました。
それならば、プロダクトの良さを真摯に伝えようと考え、コンセプト開発から着手。
「あきらめない人の車いす」と新たに定義し、COGYと名づけ、ブランドムービーも制作しました。
撮影で、歩けない方が初めてペダルに足を漕ぎ、前に進んだ瞬間は、自分も含め現場の皆で泣いてしまいました。

ーそれはすごく感動しますね。

その他にも「注文をまちがえる料理店」もソーシャルイシューです。
認知症の方が給仕をする期間限定レストランのプロデュースでしたが、注文を間違えても間違えなくても、皆が笑顔で過ごせるステキな空間をデザインしよう、と心がけました。

広告会社でこうした仕事もできる新鮮さもあり、この仕事をしてきて本当に良かったと心から思いました。

「いい人クリエイター」だけの人にはなりたくない。

ー仕事をする上で意識していることを教えてください。

一方で、「COGY」や「注文を間違える料理店」のような社会的にいいことを手がけるだけの「いい人クリエイター」的位置づけにはなりたくない。
マスメディアの広告仕事も大好きですし(笑)。

私たちプロが入ることで、車いすもちゃんとカッコよくならないといけないし、乗って恥ずかしくないものにしないといけない。
レストランもステキでおいしいものにしないといけない。
それでないと、世の中に広がっていかない。
デザインには、人の気持ちを動かせる力があるのは、学生時代に感銘を受けたap bank fesから学びました(前編参照)。

また、これらの仕事を通して、世の中にはまだまだデザインの手が入っていない領域がいっぱいある、と感じました。
福祉や医療の領域では、機能的なデザインはあっても、コミュニケーションのデザインがとても少ないという印象を受けます。
マスと社会的意義のある仕事。これらを両軸に、バランスを取りながらやっていきたいですね。

デザインが持つ飛距離と、デザイナーに求められるナナメでものを見る感覚。

ーデザインに「人を動かす力がある」のは、すごく素敵ですね。デザインで人が動いた実感はありますか?

いいデザインがつくと、一気にコミュニケーションの飛距離が伸びる……そんな感覚があります。
ごく近しい人の間で「いいね」と共有していた感覚が、遠く離れた海外にまで届くということがありませんか。

最初にそれを実感したのが、「SUNTORY WHISKY 3D on the Rocks」の仕事です。これは、いきなり海外の人たちが反応してくれました。
自分がまったく意図していなかったところにまで、同じ感覚が通じたのが、何より嬉しかった。
おそらく、企画とデザインがうまくマッチしていたからだと思われます。

人が感覚でいいなと感じるとき、デザインの力はとても大きいと思います。
その伝わる速度が速ければ速いほど、飛距離がぐんぐん伸びていくのが本当におもしろい。

飛距離と同様に、意外性も大切です。物事を伝えるには、人の興味を惹きつけるために、適度なナナメ見も大事。
「この人、いい人だよ」ではなく、「この人には、こういう面もある」と伝えるほうが、その人の魅力を引き立てることがある。
ちょっとしたナナメでものを見る感覚も、大事なのです。

デザインの仕事は、9割が辛くて、楽しいのは1割くらい。

ー仕事する上で徳野さんが大切にしている、座右の銘はありますか?

特に意識したことはありませんが、強いて言うなら、宮崎駿さんの「大事なことは、たいていめんどうくさい」でしょうか。
デザインの仕事は、9割が辛くて、楽しいのは1割くらいです。
特に僕は、産みの苦しみを感じるタイプ。
辛いことが多いし、めんどうくさいことだらけです。

Mr.Childrenの作品の中に、「彩り」という曲があります。
こんな些細な作業が巡り巡って、人を喜ばせるという歌詞ですが、まさにそういう感じ。
初めて聴いたとき、これはデザイナーのためにつくった曲なのか?と(笑)。

一方で、問題を楽しめる人じゃないと、クリエイターにはなれないです。
クライアントから提示された課題に対して、「これ、難しい」で終わると広告にならない。
「じゃあ、こうすればいいんだ」というふうに捉える人でないと広告はできないと思います。
自分が置かれている状況を楽しもう、課題解決を楽しもうとする感覚が求められる。
これは他のどんな職場でも一緒だと思います。

デザイナーに求められるのは人間力。センスはあとから身につけられる。

ー「大事なことは、たいていめんどうくさい」はわかる気がします(笑)徳野さんが後輩を指導する上で大事にしていることはありますか?

僕のところには、博報堂の新人と、TBWA\HAKUHODOに直採用された新人が集まり、それぞれ3年間いたあと、独り立ちします。

彼らには、「出された飲み物は残すな」とか、「人の送別会はサボるな」、といった一見デザインに関係ないことを指導したりします。
残すと片付ける人が大変ですし、人を喜ばせるのが広告の仕事なのだから送り出す人は大切に。礼儀作法もちゃんとやります(笑)。

なぜなら、デザイナーとして、まず大事なのは人間力。
結局、人のために仕事ができない人は、絶対に広告のアートディレクターになれないと思いますし、人の目をちゃんと意識しているかも大事なポイント。
辛さが表に出てはダメだし、軽やかに見えないといけないんです。
表に出ていない部分は、相当泥臭く見えると思いますよ(笑)。

学生を含めて若い人たちは、「自分にはセンスがない」と気にするようです。
センスは生まれ持ったものと思われがちですが、自分も含め、考え抜いてやっている人がほとんど。
絶対に、あとから戦略的に身につけられるものだと思うから、幅広いものの見方を意識しながら、あきらめずにつくり続けてほしいです。

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