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レポート
社会へ問いかけから、国をも動かす。PRアワード受賞者が語る、リアルなPRの魅力とは?〈前編〉
マスナビ編集部

マスナビでは2025年2月、日本パブリックリレーションズ協会が優れたPR事例を選出する「PRアワードグランプリ」を受賞したPRプランナーを招いて、公開OBOG訪問イベントを開催しました。
イベントには、博報堂の杉山祐太さん、マテリアルの菅野瑞樹さん、Edelmanの武田昂来さんが登壇。アワード受賞事例の解説やPRの魅力などをお聞きしました。
ファクト(事実)に基づいて誤解を払拭
ひとりではなくみんなでがPRの醍醐味
──社会とブランドの接地点を見出すのがPRというわけですね。ありがとうございます。続いて、PRアワードグランプリ2024 ブロンズ受賞「バイトル『高校生アルバイト応援プロジェクト』~闇バイトから身を守る、高校生への啓発授業~(ディップ/マテリアル)」について、菅野さんに解説いただきます。
菅野:今回PRアワードで評価いただいた「闇バイト問題の啓発」は、ディップが高校生のアルバイトを応援するためのさまざまな取り組みの中の一つでした。元々は求人情報サービス「バイトル」としてで、高校生のアルバイトに対する社会的な理解を深めて、ポジティブな方向へ導くことを目指すべく立ち上げたプロジェクトだったんです。
本プロジェクトの大きなポイントは二つあります。一つ目は、社会で活躍する次世代である高校生が、自分らしく働ける社会の実現に向けた土壌づくりをしていくことです。労働人口が減少しているなかで、高校生のアルバイトは人手不足を解消する一助となります。二つ目は、高校生がアルバイトをすることに対して、バイトルが真の価値を定義したことです。事前調査で、高校生がアルバイトを経験して良かったことには、お金を稼ぐことだけではなく、礼儀やマナー、コミュニケーション能力の向上などが挙げられていました。このことから、アルバイトが社会経験として価値のあるものというポジティブな文脈を社会に広めたいという思いで、中長期的に取り組んでいるプロジェクトです。
そして2024年は、社会課題である「闇バイト」に着目。若年層が特殊詐欺に巻き込まれるケースが増加している状況でした。この問題へのアプローチとして、闇バイト募集を見分けるクイズを作成して全国の高校生に解いてもらいました。結果は、なんと高校生の約8割が解けず。高校生はアルバイト初心者なので、例えば日給1万円と日給5万円の怪しさの違いを見極めるのにもハードルがあり、闇バイトを見分けるリテラシーが不足していることが明らかになりました。
この結果(ファクト)を世の中に発表することに加えて、「闇バイトを見分ける方法」や「正しいアルバイトの選び方」を教える出張授業を東京・神奈川・大阪などの主要都市で実施。さらに、オンライン授業で全国展開していきました。多くの教員が働くことや闇バイトについて教える機会がなかったこともあり、高校生のリテラシー向上に民間企業の立場でバイトルが入り込んだ取り組みは、メディアにも多く取り上げられました。
結果として、バイトルへの好感度や信頼度向上、ディップの社名認知向上に寄与しました。さらに、東京都や警察署からも高い評価を受け、特殊詐欺防止の啓発コンテンツに採用されたり、出張授業を合同で実施したりするなど、闇バイト啓発の取り組みが広がっています。
──味の素社の事例でも「ひとりではなくみんなで」という話がありましたが、社会課題に対していろんな人たちが協力して広がっていくのはまさにPRの醍醐味ですね。そういったことは意識されて取り組まれていたのでしょうか?
菅野:実は、警察署など他のステークホルダーへも広がりやすいように、テーマの公共性や第三者の専門家も巻き込むなど、逆算して組んでいました。あとは、メディアへのアプローチのタイミングも工夫しています。例えば、大阪の特殊詐欺件数が過去最高に増えている時期に授業を実施しました。メディアがどんどん報道することで大阪の犯罪率が下がるように、報道関係者を巻き込んでいくようなコミュニケーションを意識しました。
国が動く、社会が変わる
──仲間が増えるように常に意識していらっしゃったのですね。続いて、PRアワードグランプリ2024 グランプリ受賞「アルバイトの立ちっぱなし問題解決を目指す『座ってイイッスPROJECT』(マイナビ/博報堂/TBWA HAKUHODO)」について、杉山さんに解説いただきます。
杉山:アルバイト中に座ってもいいのでは? という「新しいあたりまえ」を提案して実装したプロジェクトです。チョイ掛けできるイス「マイナビバイトチェア」をつくるプロジェクトを始動するので、職場への導入推進・プロジェクトが話題化するPRを考えてほしいという相談から始まりました。
最初に考えたのは、座れるアルバイトという新しいテーマの必要性を社会に理解してもらうことでした。導入が必要であることを証明するには、座れないことの弊害や座ることによるメリットを示す必要がありました。
事前調査を通じて、立ちっぱなしでいることの問題点が浮き彫りになりました。接客中に体調不良やメンタル不調、生理中などでイスに座りたくなるという声が上がりました。また、接客中にイスに座れないことで、笑顔や集中力が欠けてミスが増えることも明らかに。一方で、顧客や店長もアルバイトが座っても問題ないと感じていることが多いという実態がわかりました。にもかかわらず、座れるアルバイトの導入は非常に少ないという現実が浮かび上がり、この問題を解決する必要性を強調しました。
次に、議論を活性化させるために、SNSでの話題化を狙いました。特にライブドアニュースのSNSアカウントが効果的だと判断し、そこで情報を発信。その結果、Xでは8000リポスト、3.5万いいねを獲得して議論が広がりました。さらに、SNSやWebニュースの反響をフックにメディアにもアプローチ。多くのメディアにも取り上げられ、話題が拡大していきました。
結果として、「マイナビバイトチェア」を200社以上が導入。さらには厚生労働省もこの問題に注目してアルバイトの立ちっぱなし問題について調査を開始するなど、社会全体での関心を集めました。
このプロジェクトを始めるときに、カスタマーハラスメントが社会問題になっていました。働く環境の改善という社会課題にも関連付け、従業員が快適に働ける環境づくりが必要という文脈でPRを行いました。PRを通して、すべての労働者へ寛容な環境を目指す動きが生まれた事例になっています。
──いろいろな調査データからファクトを集める。そこから社会が関心を持つ課題をつなぎ合わせて、社会へ問いかけをする。多くの人から賛同が得られて、大きな波になった先に国をも動かす。そういったところがPRの面白さの一つであると学生の皆さんにも伝わったのではないかと思います。イベントレポート後半(5月16日公開)では、登壇者それぞれのPRを目指すに至った経緯などお聞きしていきます。
登壇者プロフィール
PRアワードグランプリ2024 グランプリ受賞/アルバイトの立ちっぱなし問題解決を目指す「座ってイイッスPROJECT」(マイナビ/博報堂/TBWA HAKUHODO)
博報堂 PRプラナー 杉山祐太さん
2017年に新卒でPR会社に入社。IT、玩具、食品、BtoBサービスなど幅広い分野におけるPR業務を担当した後、広告会社に転職。ビジネス課題解決と社会課題解決の両立を目指し日々業務に取り組んでいる。
PRアワードグランプリ2024 ブロンズ受賞/バイトル「高校生アルバイト応援プロジェクト」~闇バイトから身を守る、高校生への啓発授業~(ディップ/マテリアル)
マテリアル PRプランナー/プロデューサー 菅野瑞樹さん
早稲田大学卒業後、2021年にマテリアルへ新卒入社。直クライアントグループのPRプランナー兼プロデューサーとして、マーケティング領域やPR発想を起点とした統合的なブランドコミュニケーション設計を手掛ける。公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会認定PRプランナー。プランナーを務めた「バイトル『高校生アルバイト応援プロジェクト』」がPRアワードグランプリ2024ブロンズを受賞。ほか受賞歴に、ADFEST GOLD、Spikes Asia GOLD、ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS Bronze。
PRアワードグランプリ2023 シルバー受賞/うま味調味料「味の素(R)」統合PR~50年もの誤解を乗り越え、食と健康の課題解決へ~(味の素社/Edelman Japan)
Edelman Creative Planner 武田昂来さん
2017年Edelman入社。電通でプランナーとしてキャリアをスタート。その後、公的セクターで海外経験を積んだのちにEdelmanに加わり、クリエイティブに職転。手法も国も問わず企画制作作業に携わる。仕事外では、開発途上国にまつわる研究・論文執筆活動をしている。
──早速ですが、アワード受賞事例の解説をしていただきます。まずは武田さんから、PRアワードグランプリ2023 シルバー受賞「うま味調味料『味の素®』統合PR~50年もの誤解を乗り越え、食と健康の課題解決へ~(味の素社/Edelman Japan)」について解説をお願いします。
武田:背景に、味の素社の主力商品である「味の素®」は、過去にさまざまな社会的背景から「体に悪い」といったネガティブな印象が広まり、その誤解が現在でも残っている現状がありました。その誤った認識を正したいという課題からプロジェクトが始まりました。
誤解を解決し、味の素社が世界の健康に貢献する企業であると知ってもらうために、PR的な視点で取り組みを行いました。2018年から5年間続けてきたプロジェクトです。その中で重要だったのは、「社会をアップデートするようなブランドアクション」です。まず、フェイクニュースや誤情報が社会問題として注目されていた時期に、味の素社が「正しい情報を共有する」という宣言をしました。この宣言の下に「食と健康の未来フォーラム」を立ち上げ、専門家や消費者、企業、流通業者が一堂に会し、誤情報にどう対処すべきかを議論する場を提供しました。このイベントは2020年から3年間にわたって開催され、非常に大きな反響を呼びました。フォーラム第1回では「食品添加物と味の素」と題して議論を行い、味の素社が誤解払拭に立ち向かう姿勢が社会的に応援される流れをつくり出しました。
次に重要だったのは、「ひとりではなくみんなで」という視点です。味の素に関する正しい情報を生活者へ届けるためには、料理家やインフルエンサーの協力が不可欠でした。ただ、料理家の中には味の素®を使うことを公にすることに抵抗感を持つ人もいました。このため、「ひとりではなくみんなで、味の素®のよさや正しい情報を伝えていきましょう」という活動を展開しました。
その一つが「おいしく召上れ!」プロジェクトです。味の素®が発売された明治時代に、味の素®の安全性やレシピを紹介する料理本が発刊されました。味の素社が昔から食品の安全性に真摯に取り組んできた企業であることが記載された強いファクト(事実)です。その内容を料理家のリュウジさんを筆頭にインフルエンサーたちと共有して、料理本の内容とレシピを令和に復刻するプロジェクトを展開しました。さらに、社会課題に寄り添うPR活動として、日本の若者世代の塩分過剰摂取の問題に注目しました。それを解決する料理家たちの部活動「LOW SALT CLUB」を立ち上げ、料理家たちと共に解決策を模索しました。
こうしたプロジェクトを通じて、味の素®に対してポジティブな印象を持つ生活者が、プロジェクト開始前より約20%増加しました。これが大きな成果となり、PRアワードの受賞につながったと考えています。
フェイクニュースや塩分過剰摂取など社会的に興味関心が高まっている課題に寄り添いながら、ブランドがどのようにアクションするのか。そこをサポートするのがPRの役割です。社会の興味関心に敏感であるかは、PRプランナーという肩書きでなくとも、PRに携わる人にとっては大事な視点だと思います。