RESEARCH業界・職種を学ぶ 就活・自分を知る

レポート

世の中の認識を変える。新しい文化を生む。PRアワード受賞者が語る、リアルなPRの魅力とは?〈後編〉

マスナビ編集部

世の中の認識を変える。新しい文化を生む。PRアワード受賞者が語る、リアルなPRの魅力とは?〈後編〉

マスナビでは2025年2月、日本パブリックリレーションズ協会が優れたPR事例を選出する「PRアワードグランプリ」を受賞したPRプランナーを招いて、公開OBOG訪問イベントを開催しました。

イベントには、博報堂の杉山祐太さん、マテリアルの菅野瑞樹さん、Edelmanの武田昂来さんが登壇。アワード受賞事例の解説やPRの魅力などをお聞きしました。

社会のあたりまえを変える仕事

──前編ではアワード受賞事例について背景・結果など解説いただきました。続いて、皆さんそれぞれがPRの面白さに気づいたターニングポイントについて教えてほしいです。


杉山:PRプランナーの嶋浩一郎氏が、「PRは新しい“あたりまえ”をつくる仕事である」と定義づけていて、僕もすごく共感してワクワクする定義だと感じています(編集部注:嶋さんのインタビュー記事)。「座ってイイッスPROJECT」は、実際に世の中が変わっていく様子がリアルに感じ取れた取り組みでした。新しい文化が生まれていく瞬間を目の当たりにしたような感覚があって、PRってすごく面白いものだなと実感しました。


菅野:大学3年生のときにPRコンサルタント尾上玲円奈氏(編集部注:井之上パブリックリレーションズにて執行役員を務め、2023年10月よりマテリアルの取締役に就任)の授業を受け、また彼のアシスタントを務めてPRに触れました。世の中の認識を変えたり誤解を解いたりするために、周りと違う視点に立って論調をつくりだすPRの面白さを知ったことがきっかけです。


実際にPR業界に飛び込んでからは、メディアリレーションズを通じて自分が考えた企画を記者の方に共感いただき「これは報道するべきだよね」と会話できた瞬間に、記者の方ひいては読者の方とも通じ合った気がして、改めてPRは面白いと実感しています。


武田:味の素社の国内のプロジェクトと同時期から、アメリカでMSG(グルタミン酸ナトリウム)に関する誤解を払拭するプロジェクトに携わっています。最初のキャンペーンが、「中華料理店症候群(チャイニーズレストランシンドローム)」に関する誤解を払拭するものでした。1960年代のアメリカ国内では中華料理を食べた後に頭痛や顔面の紅潮が現れ、それがMSGに対する過剰反応によるものだと当時の科学者によって報告された症状のことです。現在では、米食品医薬品局(FDA)を含めた研究機関が、チャイニーズレストランシンドロームとMSGの因果関係がないことを科学的に証明しているにもかかわらず、長らくアメリカの広辞苑のような辞書「Merriam-Webster」にMSGが頭痛などの体の不調を引き起こすと誤って記載されているという問題がありました。


そこで、インフルエンサーやセレブリティにも協力してもらい、誤解を正す#RedefineCRSというキャンペーンを展開。ソーシャル上からマスメディアに広がり、最終的にはMerriam-WebsterがMSGの定義を修正するという成果につながりました。これがPRで目指すべき姿で、社会のあたりまえを変えるPRを自分も追求したいと強く思ったきっかけでした。

多様性の時代に、PRマインドは必須に

──皆さんの話に共通している「あたりまえを変える」「常識を覆す」ことがPRの力だと感じました。皆さんが考えるPRのミライについてお聞かせください。


武田:これまでの慣習から新たな習慣(新しいあたりまえ)に変革させる事例は他にも多くあります。そういうのを目の当たりにすると、企画者としてPRの醍醐味を感じます。ただ、PRがあたりまえを変えていくという潮流も今後変わっていく可能性があると思います。その萌芽は、世界的なクリエイティビティを表彰するカンヌライオンズの中で特に真に革新的な施策を表彰するチタニウム部門に現れます。業界のミライも読み取ることができるので注目しています。


菅野:広告は差異を示すのが得意で、PRは共通を見つけ出すことが得意だとすると、今後PRはより求められていくと思います。多種多様な興味関心が是認される社会が加速すると、いろいろなコミュニティに分断されるリスクをはらみます。そういった状況下だからこそPRが共通点を見出す役割を果たすのではと信じています。PRマインドが標準搭載されていくのではないでしょうか。


杉山:僕も今後はクリエイティビティを発揮する仕事の人たちには、よりPR発想が求められていくと見ています。また「PR=メディアに露出させるパブリシティ」と小さく捉える人もいますが、僕は「PR=ビジネス課題を解決しながら社会課題も解決することを仕掛けられる仕組み」だと思っています。菅野さんがおっしゃったように、PRはすごく可能性があるし、これから広がっていくはずです。


──PRの広がりを感じられるお話でした。最後に、登壇者の皆さまから就活生へ応援メッセージをお願いします。


杉山:こういったイベントに参加している(レポートを読んでいる)時点ですごく素晴らしいなと。また質疑応答にも出てきましたが、学生時点で社会課題に目を向けられているのも立派です。一方で、社会課題を解決するという視点だけだと慈善活動になってしまいます。NPOなどパブリックセクターではなく、広告会社・PR会社が携わる存在意義とは? 社会課題を解決しながらビジネス課題をしっかり解決する。その視点を持つことで就活もうまくいくはずです。


武田:まずは興味あることに全力を尽くしてください。突き詰めることが意外なところで役立ちます。例えばクライアントの研究者へヒアリングしたとき、研究分野は違えど論文を出版した実績があることで心を開いていただき、会話が弾むこともありました。


あとは僕のキャリアが証明しているように、いつでも軌道修正はできます。ファーストキャリアを重く捉えず軽い気持ちで臨んでください。目の前のことに集中して、就活を乗り切れるといいですね。


菅野:たとえPR業界に興味を持っていないとしても、どの業界に就職してもPR(広報)は隣接しています。またさきほどお伝えしたように、多様な社会においてはPRマインドの標準搭載が求められるはずです。この機会に意識してもらえたらうれしいです。

登壇者プロフィール

PRアワードグランプリ2024 グランプリ受賞/アルバイトの立ちっぱなし問題解決を目指す「座ってイイッスPROJECT」(マイナビ/博報堂/TBWA HAKUHODO)

博報堂 PRプラナー 杉山祐太さん

2017年に新卒でPR会社に入社。IT、玩具、食品、BtoBサービスなど幅広い分野におけるPR業務を担当した後、広告会社に転職。ビジネス課題解決と社会課題解決の両立を目指し日々業務に取り組んでいる。



PRアワードグランプリ2024 ブロンズ受賞/バイトル「高校生アルバイト応援プロジェクト」~闇バイトから身を守る、高校生への啓発授業~(ディップ/マテリアル)

マテリアル PRプランナー/プロデューサー 菅野瑞樹さん

早稲田大学卒業後、2021年にマテリアルへ新卒入社。直クライアントグループのPRプランナー兼プロデューサーとして、マーケティング領域やPR発想を起点とした統合的なブランドコミュニケーション設計を手掛ける。公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会認定PRプランナー。プランナーを務めた「バイトル『高校生アルバイト応援プロジェクト』」がPRアワードグランプリ2024ブロンズを受賞。ほか受賞歴に、ADFEST GOLD、Spikes Asia GOLD、ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS Bronze。



PRアワードグランプリ2023 シルバー受賞/うま味調味料「味の素(R)」統合PR~50年もの誤解を乗り越え、食と健康の課題解決へ~(味の素社/Edelman Japan)

Edelman Creative Planner 武田昂来さん

2017年Edelman入社。電通でプランナーとしてキャリアをスタート。その後、公的セクターで海外経験を積んだのちにEdelmanに加わり、クリエイティブに職転。手法も国も問わず企画制作作業に携わる。仕事外では、開発途上国にまつわる研究・論文執筆活動をしている。